結果、黒字の顧客もいれば、赤字の顧客もいるという現象が発生します。私は価格設定に際して「勝ち」「負け」という言葉をよく使います。あまり買う気がなかった顧客が、「値段が下がっていたから買った」「クーポンに後押しされる形で買った」というパターンが勝ち。定価で買う気まんまんだった顧客が、「ラッキーなことに値段が安くなっていたから買った」「そうだ、クーポンを持っているから使って買ってしまおう」というパターンが負けです。利益を確保するためには、勝ちパターンを増やし、負けパターンを減らしていくことが重要です。
顧客からすれば、「私が赤字客? 知ったことか!」とご批判を受けるかもしれません。EC事業者が安く売っていた商品を、EC事業者発行のクーポンを使って購入しているだけですから、当然です。EC事業者にとっては、顧客の黒字・赤字を善しあしで捉えるのではなく、どういう状態になっているのかを確認し、赤字の顧客が多い理由を考えることで改善策を打ち出し、PDCAサイクルを回していくことが望ましいと思います。
25%の顧客が「赤字顧客」
売り上げの拡大から営業利益率の向上にかじを切るに当たり、推進の武器として位置付けたのが顧客別限界利益です(図25)。それ以前は、顧客の経済的価値をステータス(年間買い上げ額)だけで管理していました。
顧客一人ひとりに対し、「定価いくらの商品を購入したのか」「それをどのくらいの割引価格で購入したのか」「その際、どんなクーポンを使用したのか」「結果、粗利益はいくらだったのか」「何ポイント利用したのか」といったことを、顧客の一注文単位でひも付けしていきました。上記以外の変動費については、差し当たって売上高案分で見ることにしました。
こうしてデータを整備したところ、驚きの実態が明らかになりました。当該年度に購入履歴のあった顧客の25%強が「赤字顧客」だったのです。また、私どもが上位顧客として定義していた買い上げ上位30%の顧客も、4人に1人(約25%)が「赤字顧客」でした。参考までに、この赤字顧客が生み出す限界利益の赤字額は、限界利益の黒字額の約25%に相当する額でした。
皆さんの企業や団体でもありうるケースを書きましょう。リアル店舗とECで顧客IDを統合し、ポイントも共有されているとします。リアル店舗で購入時に付与したポイントをECで使用できるケースです(逆も可)。リアル店舗とECで別々にPL(損益計算書)が存在する場合、リアル店舗で購入時の付与ポイントを、ECでの購入時にドカッと使われると、ECの経費がグーンと上がることになります。
こんなケースも考えられます。値下げ商品を数多く買ってくれているので売上高は高いが、値下げ率が大きく、かつクーポンを上手に使っていることから、粗利益が低く、変動費などを差し引くと限界利益がマイナスになるケースです。
企業にとって利益の創出は非常に重要ですので、こうしたデータを見ながら「ポイントキャンペーンを乱発しすぎではないか」といった議論と対策をしていくことが望まれます。顧客別限界利益を見える化することは、それまでになかった方策を考えて、実行するチャンスになるのです。
多くの売り上げをもたらす顧客は、黒字であろうが赤字であろうが大切です。利益を創出できるかどうかは、企業側のマネジメントにかかっています。
顧客別限界利益のマネジメントも、顧客勘定PDCAサイクルを推進するうえでの3要素に立脚して進めました。
- 現状の可視化&基盤整備 → 黒字顧客&赤字顧客の実態把握
- 目標設定 → 黒字顧客数増加目標&赤字顧客数削減目標の明確化
- 目標達成に向けた階段設計 → クーポンやポイント施策の見直し、売価の見直し
こんな具合に、売上高を伸ばすための顧客勘定PDCAサイクルと同様に進めた結果、1年ほどで利益を大幅に増やすことができました。
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