3年間売り上げ増に注力後、利益重視に転換
私が手掛けた取り組みの話に戻ります。会社全体にとっても一事業部にとっても、重要な指標である利益についてです。私は部署のメンバーに、「売り上げは顧客からの支持のたまもの」「利益は我々のマネジメントの結果である」と伝えていました。小売業の場合、営業部門がPL(損益計算書)の観点で見るべき利益は、粗利益(売上総利益)、限界利益、営業利益の3つです。
私が顧客勘定PDCAサイクルを推進するうえでまず重視したのは、「版図」を拡大する(=売上高を拡大する)ことです。利益うんぬんの前に、「売上高の基盤なくして利益なし」と、徹底的に売上高を重視する旨を宣言し、利益はほとんど気にしないという、ある種の“暴挙”に出ました。
某専門店ECに関与してから最初の3年間は、売上高は順調に伸長しました。が、4年目に入ると、右肩上がりではあったものの、それまでの伸び率がやや鈍化。いったん、成長の踊り場に来たと感じました。
このタイミングで、いよいよ利益重視に転換する姿勢を明確に打ち出しました。ある程度の顧客の「量」の確保ができたことから、維持すべき顧客が一定数を超えたと判断したのが、路線転換の大きな理由です。売上高を維持しつつ、営業利益率を上げていく。これをやり抜くことを基本命題としました。
ここで、利益を構成する要素を分解してみましょう。まず粗利益の基本構造は「売上高-原価」です。粗利益を確保するには、「値下げしない」「クーポンを使わせない」といったことも考えられますが、それで売り上げが大きく落ちてしまっては本末転倒です。よって顧客が受け入れ可能な、適切な販売価格設定、あるいはクーポン設定・訴求が重要になります。
リアル店舗とEC、どっちがもうかる?
リアル店舗とECの利益構造について考えてみます。仮にリアル店舗事業とEC事業で、売上高対営業利益率はほとんど変わらないと仮定しましょう。実際に私が見聞きした複数の企業では、変わらない会社が大半です。
しかしながら、営業利益に至る道筋はかなり異なります。粗利益率は、リアル店舗>EC、変動費率はEC>リアル店舗、固定費率はリアル店舗>EC、という構造になっている場合が多く、結果として営業利益率は差し引きトントンになる感じです。
それぞれの構造を見ていきましょう。まず粗利益ですが、店舗はその場で商品を見てすぐに現物を入手できる(=自分のものになる)特性があります。ECの場合は、ネット上で簡単に他社比較ができるので、価格に敏感になる特性があります。ECの競合環境は、価格競争がかなりシビアです。その意味でECは、リアル店舗に比べて価格競争に巻き込まれやすいと言えます。それ故に、粗利益率は、リアル店舗>ECという構造になりやすいのです。
変動費はどうでしょう? 何を変動費として計上するかについては、企業によって多少は分かれる部分があると思いますが、例えばクレジットカード他決済手数料費、配送費、広告宣伝費、ポイント経費、商品付帯用品費などが該当します。ECはリアル店舗に比べて、カード他決済手数料費の比率が高まりますし、ECと配送は不可分な関係にあります。
一方の店舗は、ユーザー・顧客が店舗まで自ら足を運んでくれます。徒歩や自転車でなければ交通費を払ってまで来てくれるわけです。その違いから、変動費率はEC>リアル店舗となるわけです。
最後に固定費についてです。リアル店舗では、人件費、施設費が特に大きな固定費となります。人件費、施設費は、リアル店舗にとっての2大経費であり、金額として負担が大きい経費です。一方のECは、もちろん人件費は必要ですが、売り場に物理的に販売員を配置するわけではないので、やりようによっては工夫ができます。また施設費については極端な話、パソコンやスマホ、タブレットがあればどこでも仕事ができてしまいます。コロナ禍でそれがだいぶ進展したのではないでしょうか。よって固定費率では、リアル店舗>ECとなるわけです。
ただこれはあくまで構造の差異であって、リアル店舗とECでどちらが優れているかという話ではありません。ECがリアル店舗のような低変動費構造を、リアル店舗がECのような低固定費構造を単に目指せばいいのではなく、それぞれの構造を理解したうえで、理想的な利益構造を立案し、そこに向けて着実に歩を進めていくことが望まれます。
このコンテンツ・機能は有料会員限定です。
- ①2000以上の先進事例を探せるデータベース
- ②未来の出来事を把握し消費を予測「未来消費カレンダー」
- ③日経トレンディ、日経デザイン最新号もデジタルで読める
- ④スキルアップに役立つ最新動画セミナー