ダマされたつもりでお誕生日クーポンメール

 私が上記以外に顧客勘定PDCAサイクル推進の初期段階で取り組んだことをいくつか紹介しましょう。

 顧客セグメントや顧客ステータスの考え方は、顧客勘定PDCAサイクルを実際に推進する前から持っていましたが、実際に自ら推進する段階では、かなり基礎的なところから着手しました。代表的なものが「お誕生日クーポンメール」と「サンクスクーポンメール」の2つです(図22)。

【図22】顧客勘定PDCA 最初の取り組み
【図22】顧客勘定PDCA 最初の取り組み

 まず、お誕生日クーポンメールについて。顧客勘定PDCAサイクルの推進に際して顧客データベースの構築とキャンペーンマネジメントツールを導入したことから、試験運用の意味も含めて手始めに何に取り組むかが議論になりました。そのときに、顧客データベース、キャンペーンマネジメントのベンダー企業の社員から、「お誕生日クーポンから始めましょう」と提案を受けたのがきっかけです。

 正直に言いますと、聞いた当初は「何だかありふれた新鮮味のない施策だな」と思ったのですが、「ダマされたと思ってやってみてください」と自信たっぷりに勧めてきたこともあり、「では、ダマされたと思ってやってみましょう」と了承しました。

 なお、お誕生日メールといっても、顧客それぞれの誕生日当日に送信するのではなく、誕生月の前月の下旬にまとめて送っていたので、送り手側から見ると月1回、年12回の配信になります。顧客の誕生日当日にメールを送ることもシステム上では可能でしたが、お誕生月の1カ月間有効なクーポンの方が分かりやすいだろうと考え、月1配信にしました。

最終購入から30日、60日、90日後にクーポンメール

 次のサンクスクーポンメールは、前回の注文から一定期間、注文がない顧客に送るメールです。データを参照したところ、注文から30日以内に再度注文があった顧客は維持できる可能性が非常に高いことが分かったため、最後の注文から30日後に若干高めの割引率のクーポンを送付することにしました。

 メールの鉄則では、「なぜ自分にこのメールが送られてきたのか」が件名でハッキリ伝わることが大切だと言われます。しかしながら、「最後のご注文から30日が経過したお客さまへ。この期間にもう1回ご注文いただけると、私どもとしてお客さまを『維持』できる確率が上がるのでぜひご注文ください!」とはさすがに言えません。どういう件名にするか迷った揚げ句、「サンクス!(ありがとうございます!)」と言われて怒る顧客はいないだろうと考え、この名称に落ち着きました。

 なお、その後の調査で、最後の注文から60日を過ぎると離反確率が高まり、90日を過ぎるとさらに離反確率が上がることが分かったので、60日後に「ハッピークーポン」、90日後に「ラッキークーポン」と題したDMを配信することにしました。

 こちらは誕生日クーポンメールとは違い、顧客それぞれの該当日に合わせて配信しました。例えば最終注文日が3月1日の顧客には4月1日、3月3日の顧客は4月3日にサンクスクーポンメールを送るサイクルにしました。

顧客が“眠る”前に手を打つ

 3種のクーポンメールを送信する目的は、顧客を眠らせないことです。離反しそうなタ イミングで顧客のアクティブ化を図るように、先行的に施策を開始しました。

 では、この2つの施策は果たして効いたのか? まず誕生日クーポンメールは大成功でした。ダマされたと思ってやってみてよかったわけです。ベンダー担当者の経験値では、業種によって違いはあるものの、トータルレスポンス率(発送数に対する購入率)は1%とのことでしたが、3カ月ほどやってみた結果、「AUUのクーポン使用率10%強」「過去1年間購入実績のないノンアクティブユーザーでもクーポン使用率2%以上」と、当初見込みを大幅に上回りました。

 一方のサンクスクーポンメールですが、こちらもクーポン使用率4%台以上をキープと、非常に高い使用率を計上しました。もちろんクーポンを使っていただくことが最終目的ではなく、顧客を眠らせないことが狙いであるわけですが、この施策が「維持率の向上=離反率の削減」「ランクアップの促進」につながっていることはデータ上からも確実でした。顧客が眠ってしまう前に手を打つことが顧客勘定PDCAサイクルの鉄則であると改めて理解できました。

 この施策は初回購入客を2回目購入客に引き上げる効果を上げ、その後きめ細かくブラッシュアップを重ねたことで、さらなる顧客維持、育成につながりました。

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