例えば、柔道三段の人がいたとしましょう。その人が20代で三段をとり、その後柔道を離れて30代、40代、それ以上に年齢を重ねたとしても、よほどのことがない限りは三段という段位を剥奪(はくだつ)されることはありません。自動車の運転免許も同様です(高齢ゆえの自主返納はあります)。
では顧客はどうでしょう。たくさん買ってくれるステータスの高い顧客は、未来永劫(えいごう)そのままの段にとどまってくれるでしょうか?
顧客のステータスは変化する可能性があります。それもかなり高い確率で大きく変化します。仮に1人当たり購入金額の上位30%の顧客をAランク、中位の顧客をBランク、それ以外の少額購入の顧客をCランクと定義したとしましょう。前年度Aランクだった顧客すべてが本年度もAランクでいてくれればよいのですが、Bランク、Cランクに下がることがあります。あるいは「購入実績なし」ということも十分起こりえます。
反対に、前年Bランク、あるいはCランクでも、本年はAランクになる場合もあります。もちろん、前年購入実績のないユーザーが新規顧客になってくれることもあります。このように顧客のステータスは「移動」するのです。
ランクが同じであれば「維持」、ランクが上がれば「ランクアップ」、ランクが下がれば「ランクダウン」、購入実績がゼロになれば「離反」、前年度実績なしで本年度実績があれば「新規」という具合に、ステータスは移動していきます(図6)。
この移動のベクトルをどのように改善していくか、つまりは「維持・育成・獲得」をどう図っていくかがマーケティングの「肝」になります。
商品勘定の3要素:売上高、原価、粗利益
顧客勘定と対極をなす商品勘定についても説明しておきましょう。商品勘定とは、前述の通り「いくらのどんな商品がいくつ売れたのか」という観点で売り上げを捉えます。さらに掘り下げると、「売上高」から「原価」を差し引いた「粗利益」の3要素に分解できます。
小売業にとって粗利益は極めて重要です。「仕入れたものを売る」が小売業の基本です。仕入金額と売上金額の差異である粗利益から、各種変動費、固定費を引いて営業利益を算出します。粗利益がいくら手元に残るか。これによって収益力が左右されるといっても過言ではありません。
売上高のインパクトと、粗利益のインパクトを比較してみましょう。100万円の売上高で25%の粗利益の店があるとします。前年100万円の売上高が今年120万円に、つまり前年比120%の場合、利益はいくら増えるでしょう? (120万円-100万円)×25%=5万円、利益が増えます。では100万円の売上高で粗利益25万円のお店が、売上高が上がらずとも5万円利益を増やすにはどうすればよいでしょう? 粗利益率を25%から30%に上げればよいわけです。そうすれば5万円プラスになります。
この場合、売上高を20%プラスにすることと、粗利益を5%伸ばすことの利益インパクトは同一です。粗利益のプラスがいかに重要か、理解できると思います。
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