続・SNS時代の「メルマガ」新常識 第3回

製菓や製パンの材料、器具を販売する老舗専門店の富澤商店(東京・千代田)。同社は「次世代ソーシャルコマース」を掲げ、デジタルマーケティングに注力しており、SNS活用の成功事例として取り上げられることも多い。TwitterやInstagram、LINEなどSNS(交流サイト)の運用を充実させていく中、意外なことに「メルマガはやめられない」と言う。メルマガを重視する理由を直撃した。

富澤商店はSNS活用の成功事例として取り上げられることも多いが、メルマガ活用にも力を入れているという
富澤商店はSNS活用の成功事例として取り上げられることも多いが、メルマガ活用にも力を入れているという

 「製パンやお菓子作りはオタクの世界。顧客の熱量の高さをうまく伝播(でんぱ)させられれば市場創造ができるのではないかと感じた」。そう語るのは、富澤商店でSNSやメルマガなどを一手に担当するコミュニケーション部の岩井一紘部長だ。

 同社は1919年、東京・町田市に創業。今や、全国に約90店舗の直営店がある。渋谷東急フードショー、ルミネ有楽町、京王百貨店新宿店、西武池袋本店など名だたる商業施設の食品売り場に店舗を構えている。

 2022年8月より、「次世代ソーシャルコマース」を掲げ、様々なデジタル施策に挑戦している。TwitterやInstagram、LINEといったSNSの運用に加えて、ファンコミュニティーを起点とした購買体験を届ける取り組みを始めた。SNSは特に成果が出ており、約1年間でTwitterは15万人、Instagramは4万人、LINEは5万人以上、フォロワーや登録者が増えるという驚異的な成長を遂げた。

 デジタルマーケティングを加速させている背景には、「とにかく世の中に向けて話題数を増やしていく」(岩井氏)という狙いがある。「1~2年後を見据えて話題を仕込み、コミュニケーションに注力している段階」と説明する。

 SNSでの発信やそのフォロワーによるUGC(ユーザー生成コンテンツ)を通じて、顧客同士のコミュニケーション増やす。「口コミは、企業側が生成するコンテンツマーケティング以上の成果を、質と量ともに生成できると考えている。顧客同士の会話数が増えることで『深い認知』がなされる」(岩井氏)。顧客同士の会話によっておのずとブランド理解が生まれる。その結果としてアプリやLINEなどの会員登録のハードルを下げることができ、その先にF2転換率(2回目購入率)やLTV(顧客生涯価値)の向上が見えてくる。

 その狙いの下、まず注力したのがTwitterだ。23年1月24日時点で、同社のアカウントには17万9000人のフォロワーがいる。

 好評なのが、製パンや製菓に精通した社員がその知識を生かし、富澤商店で販売する材料で簡単に作れるアレンジレシピを紹介する「富澤アレンジ部」という企画だ。さらに、同社で販売する商品を使ってお菓子やパンを作った顧客の投稿を見つけ、コメントへの返信も積極的に行っている。日常的に顧客と交流することに重きを置いた運用を心がけている。

 加えて注力しているのが、Instagramだ。これは、Twitterでつながったファンの受け皿という位置付け。「まずはTwitterで熱を伝播させ、コアファンになればInstagramに移行していってもらうイメージ」と岩井氏は解説する。製パンや製菓の上級者も楽しめるような、詳しいレシピやマニアックな豆知識を公開し、コアなファンも満足できるようにしている。

 Instagramアカウントのフォロワーは23万8000人(23年1月24日時点)に及び、富澤商店のSNSアカウントでは最大規模になっている。同社のInstagramが成功事例として、マーケティングメディアやケーススタディに取り上げられることは多々ある。

 そんな中、岩井氏はメルマガについて「なくてはならない存在だ」と重要性を強調する。その真意は何か。デジタル施策に大きく舵(かじ)を切る富澤商店が、「オールドメディア」ともいわれるメルマガを活用し続ける理由をひもといてみたい。

メルマガを重要視する3つの意外な理由

 同社がメルマガを重要視する理由は3つある。まず1つ目が、「顧客とほどよいつながりを保てる」ことだ。「メールは顧客側が能動的に、見るか見ないかをコントロールできる」と岩井氏は表現する。

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