
フードシステム改革、代替プロテイン、未来のレストラン、宇宙の食――。CES 2023では、食の未来をつくり出す新技術「フードテック」の講演や展示も多く見られた。サステナビリティー(持続可能性)とも密接な関係を持つ食ビジネスは2023年にどう変化するのか。同分野の専門家であるシグマクシス(東京・港)の住朋享氏と岡田亜希子氏がCES 2023で見た最新動向をお伝えする。
デジタル技術見本市「CES」の公式カテゴリーにフードテックが加わったのが2022年。2年目となるCES 2023ではフードテックの展示ゾーンには15社が集まった他、ライフスタイル関連のゾーンも含めて数えるとフードテック関連で100社を超える展示があった。今回見られた大きな変化の1つはアジア勢の躍進だ。LG電子やサムスン電子の巨大な展示ブースは例年通りであるが、これらに加えて韓国や台湾などのフードテック関連スタートアップも存在感を出してきた。
調理家電の価値は家事支援から「あなたらしい生活」へ
CESといえば、もともとは家電の見本市。まずはスマートキッチン家電の進化を見ていく。これまで「便利に、おいしく、健康に」を実現する方向で、家電内のセンサーによる調理支援、レシピと連動した買い物支援、健康関連のレコメンドなどがフォーカスされる傾向があった。CES 2023では、ハードウエアとしての機能面よりも、ユーザーの多様な価値観やライフスタイルを訴求するソフトウエア面の進化へかじを切るという潮流の変化が見られた。
LG電子は発表会で「ThinQ UP(シンクアップ)」というアップグレード可能な家電シリーズを発表した。「Evolving with you」というコンセプトの言葉どおり、ユーザーは移り変わるライフスタイルに合わせて、常に新しい機能を付け加えていく。ある種、自由にアプリを追加できるスマートフォンのような体験が得られるというわけだ。売り切って終わりではなく、ユーザーが所有した後で、時間がたてばたつほど多くの機能をユーザーに提供していくという。
LG電子の「MoodUP(ムードアップ)」という冷蔵庫は、ドアにイルミネーション機能が付いており、天候や再生している音楽に対応してドアの配色が19万通りに変化する。近年欧米各社の冷蔵庫は、家電というよりも家具に近いインテリア用品として、パネルの色をオーダーメードし、キッチンに溶け込むようなコンセプトが増えてきた。MoodUPはその名前の通りキッチンの中心で変幻自在にムードをつくり出せるのだ。
サムスン電子は、前面に備えるディスプレーのサイズを従来の21.5型から32型へと大きくしたスマート冷蔵庫の新製品を発表した。従来サムスン電子はスマート冷蔵庫を「Family Hub(ファミリーハブ)」というシリーズ名でリリースしてきたが、今回は「Bespoke(ビスポーク、顧客に合わせてカスタマイズするという意味)」というシリーズ名を強調してきた形だ。
この冷蔵庫はパネルカラーのカスタマイズはもちろん専用アプリを使用してイラストや絵画を液晶に表示することができ、キッチンの雰囲気をつくり出してくれる。サムスンはダイバーシティーの取り組みとして障がい者の絵を冷蔵庫に表示するデモをしていた。CES 2023自体が打ち出していた「Human Security for All (すべての人のための安心安全)」というコンセプトとも合致する展示だった。
家庭が消費の場から生み出す場に
従来の調理の枠を超えた、本来は工場や専門の職人でなければできなかった食の「民主化」もフードテックあるいはスマートキッチンで注目されているジャンルの1つ。CES 2023でも関連プロダクトが複数展示されていた。
米スタートアップのグローアップは、穀物やナッツ材料と水を入れると、6分で植物性ミルクをつくることができるデバイスを展示していた。アーモンド、オーツ、ヘーゼルナッツなど10種類以上の材料に対応する。23年春に発売される予定だ。
LG電子はスマートビール醸造マシン「Home Brew(ホームブリュー)」を見せていた。コンセプトは19年のCESで発表され、現在も開発が進む。コーヒーマシン「ネスプレッソ」のようにカプセルを入れ、好みの発酵度合いを設定するだけで、10日ほどで自分好みのビールが完成する。
このほかにも、イタリアのオラは1つのデバイスでチーズ、ビール、パスタなどの多彩な食品加工に対応できるモジュール組み合わせ型のキッチンデバイスを展示していた。
手間ゼロで圧倒的においしいミールキット
米スービーは冷蔵機能付きのスマートオーブン「Suvie」を見せた。ミールキットをそれぞれの独立した部屋に入れておき、食べたい時間寸前まで冷蔵保存する。リモートで加熱をスタートして、家に着くころ出来たてを食べられる。
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