マーケターのためのCES2023キーワード 第1回

2023年、ビジネスと技術のトレンドはどこに向かうのか。その方向性を見据えるうえで見逃せないデジタル見本市「CES 2023」が米ラスベガスで2023年1月5~8日に開催となった。膨大な展示内容の中から、モビリティーやVR/AR(仮想現実/拡張現実)など注目キーワードをマーケター視点で分析する。

ポッキーをはじめグリコの海外マーケティングを手掛ける玉井博久氏がマーケター視点でのCES 2023の見どころを紹介する
ポッキーをはじめグリコの海外マーケティングを手掛ける玉井博久氏がマーケター視点でのCES 2023の見どころを紹介する

 デジタル技術の展示会「CES2023」が、新型コロナウイルス感染症拡大前とほぼ変わらない形で復活した。

 2021年は完全オンライン、22年はオンライン併用のハイブリッド開催だった。今回は22年と比べて会場は1.7倍の規模に拡大。米ラスベガスの街に東・西・南と主に3つの会場に、3200社が出展した。世界中から約11万5000人が訪れ、人気の基調講演は立ち見が続出するほどの混雑ぶりだった。このCESから海外出張を解禁、という企業も多かったのだろう。会場を歩いていると「あっちはもう見た?」などと日本語で話す声も多く聞かれた。

 CESは「コンシューマー・エレクトロニクス・ショー」の略で、もともとは家電の見本市だった。現在もその名残は残っておりテレビや冷蔵庫の展示もあるものの、扱う商品やサービスはデジタル関連の多彩な分野に広がっている。会社の規模では大手からスタートアップまで、商品の種類ではWebサービスから自動車や重機まである。会場を丁寧に見ようとなれば、2~3日ではとても回りきれない規模だった。

 そこで本特集では「CES×メタバース」「CES×モビリティー」「CES×フードテック」「CES×ヘルステック」などそれぞれの分野で、マーケターをはじめビジネスパーソンが知っておくべき注目ポイントをぎゅっと凝縮してお届けする。

CES 2023の見どころをキーワードごとに紹介していく
CES 2023の見どころをキーワードごとに紹介していく

 23年はインフレなどの影響で景況感が後退する局面が続くという見方が広がっている。そうした中でも、CESで展示された新しい技術やサービスから、どんな新たな市場を生み出せるのか。まず本記事では、ポッキーをはじめグリコの海外マーケティングを手掛け、世界最大の広告祭「カンヌライオンズ」の受賞歴を持つ玉井博久氏が、ずばりマーケター視点でCESの3つのポイントを分析する。


メタバースにコミットしない手はない

 3年ぶりにラスベガスへ向かい、現地でCESに参加した。開催期間を通じて見えてきたCES 2023の中心テーマは「1、メタバース」と「2、モビリティー」だったことは間違いない。もう1つ、今回のCESで見えたマーケター視点で重要な3つ目のキーワードがあるのだが、それは本記事の後半で紹介する。

 まずは「1、メタバース」の話題から紹介したい。技術の成熟度がまだ低く、メタバースの広がりを懐疑的に見る人もいるが、AR(拡張現実)などの新要素を取り込むことで、現在とは違う形で浸透していく可能性がある。マーケターとして、その動向は見逃せない。

 23年のメタバースは何が新しいのか。CES会期前に技術トレンドを解説する恒例の主催者セッションでは、多くの時間がメタバースの紹介に割かれていた。「メタバースは決して一時的なバズワードでもオワコンでもない。まぎれもないリアルなトレンドで、今インフラとして当たり前になっているインターネットの次なる存在だ――」。そこで話された内容を要約するとこのようになる。

マーケティング向けセッション「CMOが知っておくべき技術トレンド」の様子
マーケティング向けセッション「CMOが知っておくべき技術トレンド」の様子

 マーケティング関係者向けの「CMO(最高マーケティング責任者)が知っておくべき技術トレンド」と題したセッションでも、中心テーマはメタバースだった。登壇したオランダのデジタルマーケティング支援メディアモンクスのキャサリン・D・ヘンリー氏は「これからの世代がどの様な行動様式を持っているのかを考えれば、メタバースにコミットし続けていく必要がある」と述べた。

 若い世代が好きなゲームの多くは、3Dグラフィックスで描かれた空間内での体験を提供している。バーチャル世界で過ごすことは、ごく自然な生活の一部であり、ゲームはソーシャライゼーションの場、コネクションの場でもある。それが当たり前になっている世代が、間もなく社会に出てくることを考えれば、企業やブランドがメタバースに取り組まないという選択肢はないというわけだ。

 企業やブランドは、何から手を付けていくべきなのか。人気オンラインゲームにブランドのロゴやバーチャル化した自社商品を露出したり、ゲーム内に独自のイベントをつくったりするといった 「ロゴ露出」 「ゲーム内のゲーム」に取り組むブランドは増えてきた。それだけでは、効果は限定的だと見るヘンリー氏は「コミュニティー形成だけで終わるのではなく、トークンを利用し、どうマネタイズしていくのかが鍵になる」と解説する。

 セッションではその具体的な手法は示されなかったが、トークン活用を含めたメタバースのマネタイズを模索することが、23年以降のマーケターの課題になっていきそうだ。

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