Z世代に受けるショート動画の作り方 第3回

TikTokで290万人、YouTubeで107万人――。これは小規模の警備会社、大京警備保障(東京・新宿)が抱えるフォロワー数(2023年1月16日時点)だ。企業向け(BtoB)事業者が運用するSNSアカウントとしては圧倒的と言ってもいい。大京警備保障が手掛ける動画は、100万回以上再生されるヒット作が多いだけでなく、動画に対する視聴者のエンゲージメントが高いのも特徴だ。なぜ警備会社でありながら、フォロワーに支持される動画を作り続けられるのか。同社が考える「ヒットの法則」からその理由を探る。

大京警備保障のTikTok運営をメインで担当する櫻井大輔代表取締役社長(左)と、広報部長の畠山翔氏(右)。TikTok開始当時、社長は姿を全面的に出さず「広報A」と名乗っていた。その理由は、社長自らが出演していると「遊んでいる」という印象がつき、警備会社としての信頼が揺らぐのではないかと不安があったからだという
大京警備保障のTikTok運営をメインで担当する櫻井大輔代表取締役社長(左)と、広報部長の畠山翔氏(右)。TikTok開始当時、社長は姿を全面的に出さず「広報A」と名乗っていた。その理由は、社長自らが出演していると「遊んでいる」という印象がつき、警備会社としての信頼が揺らぐのではないかと不安があったからだという

 「2022年のSNS関連の売り上げは、1000万円を超えた」。そう明かすのは、大京警備保障のショート動画に、自らも出演する櫻井大輔代表取締役社長。売り上げの内訳は、コンサルティング、セミナー、動画制作代行などだ。

 ショート動画のヒットを受け、大京警備保障の元にはさまざまな依頼が舞い込んでくるようになった。なかでも増えているのが、多数のフォロワーを抱える大京警備保障に「インフルエンサー」として案件を受けてほしいという依頼だ。

 案件の急増を受け、櫻井社長は1つの決断をした。なんと、「divID」という社名のインフルエンサー事務所を設立することにしたのだ。大京警備保障も自らdivIDにインフルエンサーとして所属し、企業から受注した案件を受けるほか、divIDに所属するインフルエンサーにも適宜依頼する。また、自社で培った知見をインフルエンサーの育成にも役立てていく考えだという。

 小規模の警備会社がインフルエンサー事務所を設立することは、異例中の異例と言える。しかし裏を返せば、それほどショート動画のノウハウを蓄積したからこその結果でもある。同社のヒットの法則は、3つある。「1.トレンド」「2.掛け算の発想」「3.意外性」。順に見ていこう。

法則1:TikTokのトレンドに乗りまくる!

 大京警備保障がTikTokアカウントを開設したのは、20年3月下旬。そこからわずか8日で最初のヒット動画が誕生した。当時TikTok内で大流行していた「棺桶(かんおけ)ダンス」(※ガーナの葬式で行われる棺桶を担いだダンスパフォーマンス)を、警備員の教育業務全般を担当する教育長が社内にあったダイソンの空箱を棺桶に見立てて踊ったところ、再生回数が伸びたのだ。この動画は、23年1月16日現在、370万回再生されている。

@dkykeibi_tokyo ラーメンにデスソース入れられた。#おすすめのりたい #例のあれ ♬ 棺桶ーロナウド - えいじ
最初のヒット作となった「棺桶ダンス」を取り入れたショート動画

 BtoBの警備会社、しかも30~50代の男性がメインの演者を務める“異色のアカウント”がいきなりヒットした理由は、法則1つ目、「TikTokのトレンドに乗っかった」ことにある。

 一度でもTikTokを利用したことがある人であれば、「おすすめ(当該アカウントをフォローしていなくても、視聴履歴など、利用者の興味関心に沿ったショート動画がお薦めコンテンツとして表示される機能)」に出てくる動画を見続けていると、繰り返し利用されている楽曲やダンスがあることに気づくはずだ。この「よく見かける」「よく聞く」がTikTokのトレンドであり、その時々のトレンドに乗ることは、TikTokのアルゴリズムを捉え再生回数を伸ばすうえで重要なポイントになる。ただしTikTokはトレンドの移り変わりが早いため、いかにスピーディーにその瞬間のトレンドに乗れるかが求められる。

「バズる」はブランディングになる

 そもそもなぜ警備会社である大京警備保障は、ショート動画に注力するのか? いくら社員が楽しそうに流行のダンスをしてバズったとしても、本業とは直接結び付かないのではないかという疑問が残る。この問いに対し櫻井社長は、「バズることは、結果的に会社のブランディングになる」と断言する。

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