変革の真っただ中にある自動車産業にあって、自動運転の無人ロボタクシーの実現に突き進むのが、米ゼネラルモーターズ(GM)だ。新刊『モビリティX シリコンバレーで見えた2030年の自動車産業 DX、SXの誤解と本質』(日経BP)をベースに、既存の自動車メーカー(OEM)の動きで注目すべき、GMの最新戦略を解説していく。

自動運転でサンフランシスコ内を走行するGM傘下のCruiseの自動運転車(画像/22年6月ごろ筆者ら撮影)
自動運転でサンフランシスコ内を走行するGM傘下のCruiseの自動運転車(画像/22年6月ごろ筆者ら撮影)

CASEで生まれる「2つの巨大市場」

 過去に起きたスマートフォンによる変革がそうだったように、イノベーションが起こるときは物事の価値の前提が変わる。前提の変化は必ずしも一つの製品やサービスによってもたらされるのではなく、複数の要素技術の変化によって生じることが多い。

 それは自動車産業の潮流である「CASE(コネクテッド:Connected、自動化:Autonomous、シェアリング:Shared、電動化:Electric)」も同じだ。個々の要素の進展よりも、複数がかけ合わさり相互に影響を及ぼすことで物事の価値の前提が変化し、自動車産業にゲームチェンジが起こる可能性がある。

 筆者らはCASEの普及時期には差こそあれ、2030年を一つの目安として確実にすべての要素が普及に近づいており、破壊的なイノベーションが起こるのではないかと考えている。そこでは2つの大きな市場が生まれるだろう。

 まず1つ目は、従来のライドシェアに自動運転技術が加わり、ロボタクシーの市場が立ち上がることだ。その背景の一つとして、世界中で普及しているウーバーのようなライドシェア企業が自動運転の技術開発に積極的なモチベーションを持っていることがある。ロボタクシーの導入でドライバーが不要となれば、ライドシェア企業は事業コストを大幅に抑えることが可能になるからだ。

 デロイトインサイツの調査によると、いわゆるロボタクシー(シェアリング型自動運転)のコストは、従来の個人所有の車をドライバーが運転しているコストに比べて、3分の1以下という圧倒的なコスト削減が達成されるとのデータもある。さらに、EVでロボタクシーを運用した場合のコストについては、個人所有の車をドライバーが運転する場合の5分の1に当たる0.18ドル/1マイルとの試算がテスラより発表されている。つまり、CASEの「A」「S」「E」の要素のかけ合わせで圧倒的にコスト削減したビジネスモデルが構築される可能性があるのだ。

 もう一つの市場は、ロボタクシーに「C(コネクテッド)」が加わる際の変化によるものだ。ロボタクシーが前提になった環境では、人々は運転から解放されて車内での可処分時間が増大する。現在も様々な車内エンターテインメントが提供され始めているが、それがさらに充実して新たな顧客体験が創出される可能性がある。

 例えば、重要なミーティングに向けてロボタクシーで移動している顧客であれば車内で仕事をするかもしれないし、休日にスキーや山登りに向かっているのであれば事前に準備運動やイメージトレーニング、シミュレーションをするかもしれない。ロボタクシーは、もはや車という様々な体験を演出する特別な空間に「移動がついてきている」と考えてもいい。第一の目的が移動ではなく、移動中にどのような時間を過ごすかに変わる可能性すらあるのだ。

 少し古いデータだが、13年に出されたモルガンスタンレーの分析によると、将来の車の価値の大部分はソフトウエアとハードウエアに二分されると想定され、ソフトウエアの市場は車体販売の市場の1.5倍に到達するといわれている。また、2030年には米国で3000万台のコネクテッドカーが登場し、800億ドルのサービス市場が生まれるとも予測されている。

ロボタクシーで先行するGM系クルーズ

 それでは、将来実現するであろうロボタクシーに対して、どのような取り組みが進んでいるのか。まず取り上げたいのは、既存プレーヤーである自動車メーカーでありながら、DXによる新たなビジネス開発を推し進めている米ゼネラルモーターズ(GM)だ。同社は、今後ロボタクシー市場で年間500億ドルの収益、コネクテッドサービス市場で年間200億~250億ドルの収益を見込んでいる。

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