注目カラートレンド2023 第8回

ファッションは時代の大きな潮流を捉え、いち早く現象化させる役割を果たしてきた。その文脈の中で、今のカラートレンドはどのような社会背景や人々の意識に根ざしていて、これからどこに向かっていくのか。ファッション及びビューティー業界の動向を見てきた業界メディア「WWDJAPAN」編集長の村上要氏に聞いた。

2022年はビビッドな色使いが印象的だった(写真は「DIOR」22年春夏 パリコレクション。写真:AP/アフロ)
2022年はビビッドな色使いが印象的だった(写真は「DIOR」22年春夏 パリコレクション。写真:AP/アフロ)

 ここ数シーズン、カラフルな装いが増えたと感じてきた。街中を歩いていて、ビビッドで華やかな色をまとった人が目につくのだ。最近は、落ち着いたトーンのパステルカラーも登場している。これだけカラフルな色が日本のストリートにあふれているのは珍しいといっていい。基本的には、ネイビー、モノトーン、グレー、ベージュ、ブラウンといったベーシックな色をベースに、差し色としてカラーを加えるといったファッションが、日本では主流だからだ。

解放感をビビッドな色で表現

 改めて触れるまでもないが、ファッション業界はいわゆるトレンドを基軸とし、半年ごとのサイクルで回っている。商品が店頭に並ぶ約1年半前に、トレンドセッターがトレンド情報を発信する。それに基づいて糸や布のメーカーはものづくりをし、約1年前に布の展示会が行われる。デザイナーがこれらの布を服にし、約半年前にコレクションショーで発表する。その情報をジャーナリストがメディアを通じて報道する。一連の過程を経て、数々の服が店頭に並ぶ仕組みだ。

 トレンド情報とは根拠なく生み出されるものではなく、大きな時代の潮流を鑑みて、人々がどういう気分にあり、何を求めているのかを背景につくられる。その意味では、トレンド情報に基づいて作った服がすべて受け入れられるのではなく、受け手から拒否されるものもある。過去においても、華やかな色みが提案されたことは数多くあったものの、日本市場では大きな勢いにならなかった。

 「コロナ禍と共存するある種のたくましさが身につき、制限されていた外出ができるようになった解放感が、ビビッドな色を着たいという行動につながったのでは」と村上要氏。2022年の初めごろから、街中では鮮やかなグリーンや、明るく目立つレモンイエロー、深紅に近い強いレッド、“Y2K”といわれる2000年前後のムーブメント再興というトレンドを象徴するピンクなど、今までにない強い色をまとった姿が目についた。明るく自由な気分を思い切って表現したい。自分自身の気分をがらりと変えたいという願望の表れといえる。

 また、「ピュアホワイトが日常のファッションに取り入れられたのも、同じ文脈で捉えられる。新しい自分を服で表現したいという意識の表れではないか」と村上氏。従来なら「汚れが目立ちそう」と敬遠されがちな色だが、「まっさらな気分を味わいたい」「思い切って挑戦したい」という気持ちから受け入れられている。

 予想していた以上の手応えがあることから、カラフルなアイテムを前面に出すブランドも増えた。「ユニクロ」ではここ数シーズンの反応の良さから、23年春夏もカラフルな色を展開する予定。コレクションに参加しているデザイナーブランドに限らず、幅も奥行きも広がっているのが特徴だ。

 色だけに限った話ではない。ここ数シーズンは基本的にビッグなシルエットが主流になっているが、単に大きめというより、ビッグなものとタイトなもの、ロングなものとショートなものを組み合わせ、不均衡の中に新しいバランスを見いだしている。これも、既存の枠組みをはみ出る試みといえるのではないか。カッコ良さとダサさ、上品と下品のギリギリの際を攻めるスタイルと見ることができる。

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