※日経エンタテインメント! 2022年12月号の記事を再構成

2016年3月から『星野源のオールナイトニッポン』のパーソナリティーを務める星野源。17年に「ANN」では初めて「ギャラクシー賞ラジオ部門DJパーソナリティ賞」を受賞するなど、今や“ANNの顔”の1人となった彼に、ラジオの好きな点について聞くと、「開かれた内輪を広げていけるところ」と返ってきた。その信念はずっと星野の番組の軸となっている。そう考えるようになったのは、星野がラジオにハマった中学生の頃にまでさかのぼる。

ほしの・げん 1981年1月28日生まれ。埼玉県出身。音楽家/俳優/文筆家。2010年に1stアルバム『ばかのうた』でソロデビュー。16年3月から『星野源のオールナイトニッポン』がスタート。17年に「第54回ギャラクシー賞ラジオ部門DJパーソナリティ賞」を受賞。代表曲は『SUN』『恋』『アイデア』『ドラえもん』『不思議』『創造』『喜劇』など
ほしの・げん 1981年1月28日生まれ。埼玉県出身。音楽家/俳優/文筆家。2010年に1stアルバム『ばかのうた』でソロデビュー。16年3月から『星野源のオールナイトニッポン』がスタート。17年に「第54回ギャラクシー賞ラジオ部門DJパーソナリティ賞」を受賞。代表曲は『SUN』『恋』『アイデア』『ドラえもん』『不思議』『創造』『喜劇』など

内輪のルーツは『コサキンDEワァオ!』

 学生時代はあまり友達がいなかったこともあって、孤独な人同士でつながりやすいラジオの特性に引かれたところはあると思います。中学高校と通学に片道2時間かかる学校に通っていたんですが、その間ずっとカセットテープに録音した、小堺一機さんと関根勤さんがやっていた、『コサキンDEワァオ!』(TBSラジオ)を聴いていました。

 最初の印象は、「ぜんぜん意味が分からない!」だったんです。「何でここで関根さんが絶叫しているのか?」って疑問に思ったり、関根さんが何か言おうとしたら小堺さんが吹矢を出す音を発し、関根さんが悲鳴みたいな奇声を上げてそのままCMにいったりしてましたからね(笑)。ただ、小堺さんも関根さんもスタッフさんも作家さんも、みんなめちゃくちゃ楽しそうなんです。曜日によっては、当時La・おかきっていうコンビを組んでいたずんの飯尾(和樹)さんもいて、みんなでワイワイやっていて。それってすごく内輪なんですよね。なのに、何でそんなに楽しそうなのか知りたいなっていう気持ちでずっと聴き続けていました。

 その頃は、「一見さんお断り」みたいな敷居の高さがある番組も多くて、「長く聴いているのが偉い」という少しギスギスした悪い意味で内輪な雰囲気を感じることもあったんです。でも、『コサキン~』は内輪なのに自由で楽しそうで、「誰でも入ってきていいよ!」という雰囲気があって引かれましたね。内輪を内輪じゃなくしていくのではなく、めちゃくちゃ大きな内輪を作っていく、そのビジョンはここから生まれましたね。

 構成作家やディレクターなどのスタッフが前面に出るコーナーは、まさにその内輪を広げていくという好例だ。過去にスタッフがパーソナリティーを務める“箱番組”のコーナーが生まれたのも、放送作家の寺坂直毅氏の存在がきっかけだった。

 僕の番組のスタッフは変で面白い人がたくさんいて、表に出る才能がある人も多い。もちろん、名前や顔が出ることに対して「無理してないかな」ということはその都度チェックしながらやっているんですが、実際表に出る人になって花開くことが多いんです。なので、「この人たちは『星野源のオールナイトニッポン』出身なんだ」ということを知ってもらっていたほういいと思い、リスナーに対してスタッフの顔と名前を一致させてもらうことからやっていきました。

 例えば、寺ちゃん(構成作家の寺坂直毅)は『NHK紅白歌合戦』マニアで、全部の年の前口上を空で言えたり、学生の頃、授業のコマに全て架空のラジオ番組を割り当てて、授業中に頭の中で全てのラジオ番組を再生しながら授業を受けていたような人。そんなエピソードって、ラジオとの相性がすごく良いと思うんです。しかも、今はラジオについての話題は共有されやすくなりましたが、僕が学生の頃は、たまに開催される公開録音の時だけ同じ番組を聴いてる人に出会って、共有できるような感じでした。その時代に1人でラジオを聴いていた寺ちゃんの中に広がる宇宙みたいなものをリスナーに伝えたい。そんな気持ちから“箱番組”が生まれました。それで、他にも面白いスタッフがいるので、どんどん派生していったんです。

 僕のアイデアでコーナーや流れが決まることが多いので、みんなのアイデアを出す場面がもっとあったほうが良いと思ったのも1つの理由ですね。それぞれのアイデアがそのまま形となり、しかも出演までするので責任感も伴ったいい企画になるんじゃないかなと。それは「星野ブロードウェイ」も同じですね。

スタッフの変化に達成感

 そんな星野の思いの下、20年に誕生したのがラジオドラマを繰り広げる「星野ブロードウェイ」だ。リスナーから題材を募集し、それをもとにスタッフが脚本を作成、星野とスタッフが役者として演じる。すでに80回以上も続く人気コーナーだ。

 このコーナーは、当時ディレクターだった石井玄(ひかる)の、「源さんの役者の部分を番組でもっと出したい」という提案から始まりました。現ディレクターの野上(大貴)くんがリスナーにしっかり受け入れられたのは「ブロードウェイ」のおかげだと思っています。

 野上くんって、もともと笑えないタイプのミスをする人だったんです(笑)。そうなると普通はミスを見えないように隠して処理すると思うんですけど、放送中に言及せざるを得ないレベルのどデカい問題が起きたりする(笑)。だから、ちゃんとリスナーに受け入れられる、“いつミスしても「しょうがないな」と許してもらえる人”にしないといけないと思って、野上くんがミスをした際に“問題を起こす人”ではなく“みんなが持つ厄災を一手に集めてしまう避雷針みたいな人”というキャラクターとして表現していったんです。

 そこから、少しずつ面白がってもらえるようになりました。彼はもともと学生芸人だったこともあって、とてもガッツがある人なんですけど、そこで「ブロードウェイ」が始まり、後先考えない熱演をするようになって、それを面白がってたら、どんどん受け入られるようになった。“ちょっとダメな人”から“変だけど一生懸命な人”に変わっていったんです。うれしかったですね。そうやって、なかなかいないタイプのディレクターになっていったことに、こっそり達成感を噛み締めてますね(笑)。

 「ブロードウェイ」は全体的にくだらない展開になることが多く、はっきり記憶に残ってる回は少ないんですが(笑)、昨年開催した配信イベント(『星野源のオールナイトニッポン リスナー大感謝パーティー』)で野木(亜紀子)さんが脚本を書いてくれた回は忘れられないですね。団結力も感じましたし、積み重ねてきたものが出たなと思いました。

マジックが起きる場所

 「星野ブロードウェイ」ではシソンヌのじろうも脚本を提供したり、オードリーの若林正恭は星野の楽曲『Pop Virus』にラップを付けて披露するなど、番組ではゲストと星野とのスペシャルなコラボレーションが話題になることも多い。それぞれのクリエーティビティーをぶつけ合う場にもなっている。

 例えば、僕は毎年、日村勇紀さんの誕生日ソングをラジオで披露しているんですけど、あれめちゃくちゃ大変なんです。でも、やるのがもう普通になっているので、ある意味自分の番組じゃない場所でカロリーの高いことをすることに対して麻痺してるかもしれない(笑)。だから、ゲスト案を話し合っている時に、「この人にこんなことやってもらえたら最高だよね」みたいな発想が素直に出てくるのかもしれないです。もちろん「難しかったら即引こう」っていうような温度感で相談してますが、意外とOKしてくれることが多い。すごくありがたいです。

 若林さんがラップを付けてくれた時も、若林さんは行ったことのない場所に踏み入れることの刺激を必要としている人なんじゃないかっていう予感がありました。僕もそうなので。それで、ダメ元でお伺いを立てたら、「やります」と言ってくださったんです。あまりにも素晴らしいリリックとラップでしたね。そういう特別な何かが起こるっていうのは本当にゲストの皆さんのおかげだと思います。

 そういうことが積み重なってきたことで、もしかしたら「あのマジックが起きた場所か」って思って、カロリーが高くても参加してくれている方がいるのかもしれません。

 今後のビジョンを聞くと、「やりたいと思っていたことはほぼ実現できた」と話す。

 TBSラジオが圧倒的に強い時代が長くあったんですが、火曜日のレギュラーになってしばらくした後のスペシャルウィークで、僕の番組が初めて火曜の聴取率で総合1位になったと言われたんです。もともと勝つのは無理だろうなと思っていたんですが、偏っているパワーバランスを変えられたらいいなと思っていたので、歴史を変えられたことは達成感がありました。今年は“ポメラニアンがパーソナリティー”っていう無茶苦茶な企画で聴取率1位を取れたのも最高でしたね(笑)。

 今では番組中に、丸々ライブをやることも普通になってきましたよね。だから、今後という意味では、ぜひスタッフに僕を驚かせるようなアイデアを出してほしいなという気持ちはあります。あと、番組で最近話した、「混ぜご飯選手権」。これはやってみたいですね(笑)。

星野源のオールナイトニッポン 火曜25時~27時
 2016年3月29日の第1回放送から続く「ジングルのコーナー」や「星野ブロードウェイ」などに加え、リスナーの性体験を紹介する「夜の国性調査」も人気コーナー。20年4月にはYouTubeに番組公式チャンネルを開設。番組直前にはビフォートークも配信している。
写真は2022年10月11日放送回。「ジングルのコーナー」(前編参照)では、今回もリスナーからのネタ系のジングルが充実、星野が爆笑するシーンも度々見られた。向かいに座っているのは「寺ちゃん」こと、放送作家の寺坂直毅
写真は2022年10月11日放送回。「ジングルのコーナー」(前編参照)では、今回もリスナーからのネタ系のジングルが充実、星野が爆笑するシーンも度々見られた。向かいに座っているのは「寺ちゃん」こと、放送作家の寺坂直毅
【ラジオトーク 延長戦】
――番組前の過ごし方は?

星野 まず会議室に集まって、本放送前にYouTubeで生配信している「ニセ明のオールナイトニッポン」のサムネイルになるニセさんの絵を描きます。その後少し雑談をし、リスナーの方からの感想メールを読んでその日の放送中に読むものをピックアップして、「星野ブロードウェイ」の台本を見て、全体を読まずに自分の役の部分だけ印を付けるのが基本的な流れです。毎回「星野ブロードウェイ」の全貌を知るのは本番まで我慢してるってことですね(笑)。

――ブースに持って入るものは?

星野 ライブで飲んでいるのと同じ、マヌカハニーをお湯で溶かしたドリンクと水です。ラジオの時にハチミツ以外の甘い飲み物を飲んじゃうと喉がイガイガしちゃうんですよね。

――気になる他のANNパーソナリティーは?

星野 特にいないですね……。フワちゃんはたまに僕の話をしてくれているみたいでうれしいです。ニッポン放送って、言っちゃいけない言葉の数が放送局の中で1番多いんですよ。でもフワちゃんは、いくら止めてもその言葉を言ってしまうので、そのままにしてるらしくて。「じゃあそもそもその規制いらないんじゃない?」って思ってます(笑)。もっとルールを壊していってほしいですね。

(写真/中川容邦 ヘアメイク/廣瀬瑠美)

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