※日経エンタテインメント! 2022年12月号の記事を再構成

他局に勤務するサラリーマン(当時)という立場でパーソナリティーに就任したのが3年半前。異色の存在ながら番組は評価を上げ続け、イベントや書籍など放送外へも広がり続けている。自身もテレビ番組の作り手である佐久間から、今の「ANN」の強さはどう見えているのか?

さくま・のぶゆき 1975年11月23日生まれ、福島県出身。1999年テレビ東京に入社。『ゴッドタン』『あちこちオードリー』『ピラメキーノ』『ウレロ☆シリーズ』などを手掛ける。2021年4月よりフリーランスに転身。Netflix『トークサバイバー!』、YouTubeチャンネル「佐久間宣行のNOBROCK TV」など活躍の場を広げている
さくま・のぶゆき 1975年11月23日生まれ、福島県出身。1999年テレビ東京に入社。『ゴッドタン』『あちこちオードリー』『ピラメキーノ』『ウレロ☆シリーズ』などを手掛ける。2021年4月よりフリーランスに転身。Netflix『トークサバイバー!』、YouTubeチャンネル「佐久間宣行のNOBROCK TV」など活躍の場を広げている

 放送外への展開を強める近年の「オールナイトニッポン」。その象徴と言えるのが、2019年4月から放送中の『佐久間宣行のオールナイトニッポン0(ZERO)』だ。『ゴッドタン』『あちこちオードリー』(ともにテレ東系)などを手掛けるテレビプロデューサーの佐久間がパーソナリティーを務める番組は4年目になるが、22年5月にSpotifyで独占配信が始まるなど好調に推移。10月には「佐久間宣行ANN0 presents ドリームエンターテインメントライブ」を横浜アリーナで開催したほか、配信を含めて過去4度のイベントが成功している。11月2日には2冊目となる番組本も発行。この広がりを本人はどう受け止めているのだろうか?

 音楽とお笑いを融合した10月のイベントは、ニッポン放送が考えてくれた企画です。僕の単独イベントで東京国際フォーラム(21年11月)は埋まりましたけど、さすがに横浜アリーナはあり得ないので。あと、東京国際フォーラムではサンボマスターが出てくれるはずだったんですけど、山口(隆)さんの急病でそれがかなわず、「借りを返したい」とおっしゃってくれていたこともきっかけの1つですね。そこで、サンボマスターやRHYMESTERなど僕の好きなアーティストに集まってもらって、存分にライブをやってもらうものをベースにしようとなりました。

 当日はそれぞれのアーティストの紹介をしつつ、楽しくトークをしたり企画をする場所もあるという感じで。さらに、配信向けにはライブを見ながら僕がトークをするという趣向もありました。ライブ中も仕事があったけど、好きなアーティストのライブを特等席で見られるのはありがたいですね。

まるでジャニーズライブ!?

 リスナーとのイベントは、毎回その熱にびっくりします。『ゴッドタン』の「マジ歌選手権」でも感じることですけど、1つの番組のファンが数千人とか集まると、本当に異常な空間になるので。放送を全部聴いている人たちだから、どんな小ネタでもウケる。見たことのあるもので似た空気を感じるのは、ジャニーズのライブですね。あれはファンクラブに入っているお客さんばかりだから、やっぱり何を話しても沸くんですよ。ラジオのイベントって、それに近いんです。しかも、リスナーは口が堅いって思っているから、何でも話せてすごくやりやすい。

 昨年1月には新型コロナの再流行で東京国際フォーラムのイベントが中止になり、代わりに配信イベントもやりました。「ANN」のパーソナリティーでは僕が最初だと思います。とにかく悔しかったし、配信は『あちこちオードリー』で経験があったので、イベント担当の石井(玄)から提案が来て、すぐに「やる」と答えました。

 内容を考え始めたらCMもないし曲もかけられないしで、大変でしたけどね。ゲストに矢作(兼)さんにも来てもらいましたが、そのコーナーまで1時間以上1人だから、これは持たないんじゃないかなってマジで思いました。

 ところが、チケットは1万7000枚以上も売れて、コメントを含めて盛り上がった。ニッポン放送が「配信イベントいけるじゃん」って手応えを感じているのを見て、「俺で試しやがったな」って思いましたね(笑)。『ANN0』で最初にタイアップのコーナーをやったのも僕なんですよ。きっと佐久間は作り手の立場が分かるから、二つ返事で引き受けるだろうというのがあって、新しいことは俺で試してるなって思いますね。

“通常回”が民放連賞に

 もちろん、これだけ熱を持ったリスナーを集められるのは、大本となる番組自体がけん引力を持っているからに他ならない。本人も「最初は業界の人が聴いているのかなくらいに思っていましたけど、2年目くらいから会社勤めの人や学生など一般の人に『楽しみにしています』と言われることが増えた」と話す。

 22年4月6日の放送回では、高校生の娘と2人で行った箱根への半日旅行を、父親の目線からユーモアを交えて語ったフリートークが大きな話題に。リスナーから共感の声が相次ぎ、「日本民間放送連盟賞ラジオ番組生ワイド部門」の最優秀賞に輝いた。

 すごくいい回ができたなっていうのは、生放送が終わってからのブースの雰囲気とかで感じてはいたけど、翌週には次の放送があるから、すぐに来週のフリートークはどうしようって僕の中ではなっていたんです。そうしたら何日か後に、プロデューサーの冨山(雄一)さんに「反響がすごいので、民放連の賞に出そうと思います」と言われて。「え? 通常回ですよ」と答えたのを覚えています。ああいう賞って、特別な回が取るものだと思っていたんですよ。ギャラクシー賞だとオードリーのむつみ荘から放送した回とか、2年前に民放連賞を取ったサンドウィッチマンも震災を扱った番組でしたし。

 反響には僕も驚きました。ご年配の方から来るかと思ったら、「もっと父親を大切にしたい」とか、下の世代のリアクションが多かったので。リスナーは30代とか若いサラリーマンが多い印象だったんですが、10代20代もすごくいるんだなって改めて気づきました。

 でも、番組が始まった頃なら、あの話はしてなかったでしょうね。最初の1年は僕自身に興味はないだろうから、仕事の話や芸能界の話をできるだけしようと思っていました。でも、2年目にコロナで仕事が完全に遮断されて、外にも出られないので、家族や家のことしか話すことがなくなった。それをリスナーが面白がってくれて、こういう話をしてもいいんだ、自分の気持ちを乗せて話せば聴いてくれるんだという積み重ねがあってなので。フリートークについては、今は事前の打ち合わせも短くなったし、スタッフからも信頼してもらっているような気がします。

 ただ、この番組の基本形はスタート当初と変わらないんですよね。実は、コーナーも含めて番組の構成はすべて、作家の福田(卓也)と初代ディレクターだった石井が考えたもの。番組が始まる時に、僕は企画について自分からは意見しないと伝えたんです。その代わり、演者として「これをやってくれ」と言われたことは1度はやると言いました。自分が作り手だったらそのほうがやりやすいし、僕の経験上、演者が企画を提示されて尻込みするのは、自信がないか自分がおいしくないと思ったかのどちらかなんですよ(笑)。それを連発されると番組は同じことの繰り返しになってしまう。僕がそうなったらまずいし、番組も広がらないですから。それでも番組の構成は同じままということは、今は変える必要がないという判断だと受け止めています。

“平場”の力が見えるラジオ

 番組スタート時はテレビ東京の社員だった佐久間は、21年4月よりフリーに。その後はテレビ番組制作にとどまらず、YouTubeチャンネルの運営、女性アイドルのプロデュースなど活躍の場を広げている。また、『踊る! さんま御殿!!』(日テレ系)や大河ドラマ『鎌倉殿の13人』のトークスペシャル番組(NHK)など、出演者の側に立つことも増えた。自身のキャリアにも大きな影響を与えたラジオや「ANN」について、制作者の立場から感じることは?

 自分が番組を作る立場で考えると、ラジオってその人の価値観とか平場でのしゃべりが分かるんですよね。例えば、YouTubeなどは自分でいいところだけを編集するから、見せたくないところは隠せちゃう。その点、ラジオは隠せないし、咄嗟の対応力みたいなものも見える。ラジオで面白い人は安心して外に出せるんです。Creepy Nutsも、ラジオが面白いから早くに『あちこちオードリー』に出てもらいましたが、「テレビで売れちゃうよ」って言ってたら本当に早かったですね。

 僕の場合は番組に意思があって、「こういう力を借りたいんです」と誘われることが多いですね。やはりみなさん番組を聴いてくれていて、こいつなら準備して語ってくれるだろうと考えている。何か1つの価値観に対してその良さを語る、あるいはなぜそれが当たっているかを分析する、その2つが求められているのかなと思います。

 「ANN」の強みは、やっぱり圧倒的な歴史ですよね。僕も中学生の時に伊集院(光)さんの放送を聴いていたり、10代の頃は支えられていました。そういう人がパーソナリティーとして帰ってきて語り、それをradikoなどによって戻ってきたリスナーも聴いている。たいていはパーソナリティーが代わると番組やタイトルも変わってしまうので、枠や看板が残っているのは大きいと思います。

 あと、中に入って感じたのは、スタッフが物語を作るのがうまいこと。僕とリスナーの間で盛り上がったことをつなげていくのが本当に上手ですね。例えば、2年前に東京国際フォーラムのイベントでやる企画を募集したら「チュロス上げゲーム」というネタが来て、番組内ですごく盛り上がった。実際に会場でやってみたら、これが大ウケだったんです。すると、昨年10月の横浜アリーナでは、そのチュロスがペンライトとしてグッズ化されている。お客さんがそれを持てば、みんなで「チュロス上げゲーム」ができると完売しちゃった(笑)。そういう物語の作り方は、作り手としてすごく勉強になりました。

 そして、生放送というのが何よりも大きい。それは僕自身もラジオの醍醐味だと思っています。オープニングでしゃべったことなどがネタにされて、リスナーから次々にメールが届くのは本当に気持ちがいいんですよ。「この線をいじってきたか」なんて4時頃に感じていると、アッという間に90分が終わっちゃうんですよね。

佐久間宣行のオールナイトニッポン0(ZERO) 水曜27時~28時30分
 エンタメ関連のニュースや身の回りの出来事について話す大好評のトークのほか、リスナーから募集する「企画書は、ラブレター…」などのコーナーも。毎週、選曲も自ら担当している。

「エンタメの話はもちろんですが、サラリーマンとしての話や家族との話、そしてコロナ禍での暮らしなど、自分たちの生活と地続きの話がとにかく面白いです。秋元康さんから「佐久間なら新たなANNの歴史を作れるんじゃないか」とパーソナリティー起用への推薦を頂きましたが、まさにその通りになっていると思います。」(ANNの番組プロデューサーの冨山雄一氏)
佐久間宣行のオールナイトニッポン0(ZERO)2021-2022
2022年11月に発売した番組本第2弾。テレビ東京を退社し、フリーとなった2021年4月以降の放送から厳選したフリートークのほか、語り下ろしのエッセー、アンガールズ・田中卓志や番組の齋藤修ディレクターのインタビューなどを収録。「日本民間放送連盟賞」を受賞した箱根旅行のトークも収めている。(扶桑社/税込1650円)

(写真/中川容邦)

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