※日経エンタテインメント! 2022年12月号の記事を再構成

「オールナイトニッポン」ブランドを放送以外にも押し広げるなか、特に大きな盛り上がりを見せているのが「イベント展開」だ。番組単独での開催の増加、配信イベントの実施など、内容や届け方にも変化が生まれている。どのような戦略で進めているのかに迫った。

10月1日に東京国際フォーラム・ホールAで開催されたマヂカルラブリーの番組イベント
10月1日に東京国際フォーラム・ホールAで開催されたマヂカルラブリーの番組イベント

 放送局にとって、イベントはチケットやグッズなど「放送外収入」を得られる、ビジネス面での軸の1つだ。ニッポン放送も、古くから「オールナイトニッポン」(以下、ANN)の関連イベントを多数仕掛けてきた。だが、ニッポン放送にてイベントや書籍、グッズ販売といった事業を担当するエンターテインメント開発部の石井玄氏によると、その作り方が変わってきているという。

 「かつては、パーソナリティーや歌手の方が集うフェススタイルが中心でしたが、最近増えているのは、番組ごとの単独イベントです。

 これは個人的な意見ですが、転機となったのは2014~15年頃かなと。14年9月にオードリーさんが東京国際フォーラム・ホールAにて『ニッポン放送開局60周年記念 オードリーのオールナイトニッポン5周年記念 史上最大のショーパブ祭り』を、15年11月には当時は1人でパーソナリティーを務めていたナインティナインの岡村(隆史)さんが『ナインティナイン岡村隆史のオールナイトニッポン1周年記念 岡村隆史のオールナイトニッポン歌謡祭 in 横浜アリーナ』を開催したんです。それまでも、ももいろクローバーZさんなどと組んで大きな会場でイベントを行ったことはあるのですが、ライブでの動員実績のあるアーティストさんでなくても、番組の単独企画で5000人や1万人を集客できると分かりました」(石井氏、以下同)

 2022年も10月1日と2日には、マヂカルラブリーとCreepy Nutsがそれぞれ東京国際フォーラム・ホールAで番組イベントを開催。マヂカルラブリーは配信チケットも販売、Creepy Nutsは全国の映画館でライブビューイングも実施した。10月29日と30日には、横浜アリーナで、佐久間宣行とナインティナインとがそれぞれ音楽ライブを成功させている。

マヂカルラブリーに続き、10月2日にCreepy Nutsが東京国際フォーラム・ホールAでイベントを開催
マヂカルラブリーに続き、10月2日にCreepy Nutsが東京国際フォーラム・ホールAでイベントを開催

番組リスナーに寄せた作りが主流に

 またコロナ禍の影響を受け、リアルな場でのイベントが難しくなったことから、配信にも注力。21年1月に行われた佐久間宣行の配信限定イベントは約1万7000枚、同年9月の星野源のイベントは約3万枚のチケットが売れた。

 イベントの構成自体も大きくシフトチェンジした。「以前は、番組単体イベントでも、集客力のあるアーティストなどをゲストに呼んでイベントを成立させようという発想だったのですが、今、『ANN』のイベントは、番組ゆかりの人だけで構成するという、番組リスナーに寄せた作りが主流です」。

 マヂカルラブリーとCreepy Nutsのイベントも、まさにリスナーに向けた構成だった。まず両日とも、ニッポン放送のスタジオを模したラジオ風のセットをステージ上に設置。各番組の人気コーナーに寄せられた投稿を、ラジオさながらに読み上げていく。有名ハガキ職人の投稿が採用され、ラジオネームが読み上げられただけで会場からどよめきが起きた。

 ラジオの放送と違うのは、ステージ中央に設置されたスクリーンに投稿内容をテキスト化して表示したり、関連映像を流したりと、視覚的にも楽しませる点だ。また、マヂカルラブリーのイベントでは、番組の人気コーナー「エール! 心のボディビル」で本物のボディビルダーが登場し、投稿を読み上げるたびにポージングを披露。Creepy Nutsのほうでも、番組の人気コーナー「GAL OF THE DEAD」にてゾンビメークをしたギャルを出現させて会場を沸かせた。

 「大会場なので、せっかくなら普段できないことを大々的にやろうと考えてしまうのですが、それをやってもあまり喜んでもらえない。そういうのは、他のイベントで見られるからいらないと(笑)。普段のラジオ番組に、エンタテインメント要素を加えて、より濃くしたほうが喜んでいただけるんです。イベントグッズの制作も考え方は同じですね。22年10月29日の佐久間(宣行)さんのイベントでは、『チュロス型ペンライト』を販売したんですが、これは21年11月のイベントで盛り上がった『チュロス上げゲーム』をグッズにしたんです。番組を知らないと、一体何なんだっていう話ですよね(笑)」

 テレビと比べると、コアなファンが多いラジオだが、「ANN」のイベントはそのなかでもより濃いファンに向けた場となっていると言える。「昔から番組作りの基本として、『内輪に寄りすぎるな』と言われてきましたが、今のラジオでは内輪を大事することが重要ではないかと思っています。放送やイベントを通じて濃いファンになっていただければと取り組んでいます」。

“生演劇”に2万4000人

 一方で、内輪向けだけではなく、新規リスナーの獲得を意識した取り組みにも力を注ぐ。その1つが、3月20日と27日に実施した『あの夜を覚えてる』だ。これは、ニッポン放送の実際の社屋を舞台として利用し、生配信した演劇ドラマ。千葉雄大が「ANN」のパーソナリティー役、高橋ひかるがAD役を演じ、総合演出を佐久間宣行、プロデューサーを石井氏が務めた。オンラインチケットは2万4000枚も売れ、6月には上映会も開催、12月にはBlu-Rayが発売になるほどの反響があり、大成功に終わった。

3月20、27日に行われた、ニッポン放送を舞台にした生配信舞台演劇ドラマ「あの夜を覚えてる」
3月20、27日に行われた、ニッポン放送を舞台にした生配信舞台演劇ドラマ「あの夜を覚えてる」

 「先に挙げたイベントは従来のファンの皆さんには喜んでいただけますが、ラジオファンのすそ野を広げることにはなかなかつながらない。新しい接点が必要だと考えていたところに、劇団ノーミーツさんから『ANNと組んだ配信の演劇をやりたい』という提案をいただいたんです。2万4000枚ものチケットが売れ、演劇好きな方、主演の千葉雄大さんと高橋ひかるさんのファンの方など、従来のリスナーさん以外にも届いた実感があります。

 僕個人としては、今回の演劇のように、番組にひもづいたものではないけれども、ラジオの魅力を伝えるイベントを作っていくことが次の段階として必要だと考えています」

【イベントレポート1】
マヂカルラブリーのオールナイトニッポンZEROⅡ’ ~でっかいフォーラムでーす~
 開催発表後から、マヂラブの2人はどのような企画を行うかをリスナーとともに番組内で考えてきた。オープニングに採用されたのは、アイデアの1つとして挙がっていた「マグロ解体ショー」。会場にいるのは経緯を知る人ばかりのため、マグロが映っただけで大きな笑い声が起こった。このほかにも、2人がピラフの大食い対決をする「真のギンはどっちだ!ピラフ大食い選手権!」などリスナーと考えたコーナーが多数実施された。また、これまでの番組の歴史を年表とともに振り返るトークや、客席のリスナーと野田クリスタルが『野田ゲーWORLD』で対決するコーナーなど、番組そしてマヂラブらしさにあふれた企画が続き、終始、笑いに包まれたイベントとなった。
「マグロ解体ショー」は会場近くのニッポン放送から中継。野田はマグロを持って会場入り
「マグロ解体ショー」は会場近くのニッポン放送から中継。野田はマグロを持って会場入り
レギュラー初回から最新回までの出来事を記載した年表を見ながら、番組の歴史を振り返った
レギュラー初回から最新回までの出来事を記載した年表を見ながら、番組の歴史を振り返った
野田が監修を務めるゲーム『スーパー野田ゲーWORLD』でイベントに来ているリスナーと対決
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【イベントレポート2】
Creepy Nutsのオールナイトニッポン『THE LIVE 2022』~オレらのRootsはあくまでラジオだとは言っ・て・お・き・たい ぜ!~
 『ANN』第1回放送が行われたのは1967年10月2日。その記念すべき日にCreepy Nutsがイベントを実施した。2人に1部昇格を告げる様子を収めた貴重な映像からスタートするも、すぐに映画『相棒』(08年公開)が流れるという不思議な展開に。だが、会場は大爆笑。松永が『相棒』のファンと知っているからだ。続いて、エド・シーランのヒット曲のイントロに歌詞をつける、レギュラーコーナー『大江戸シーラン』に入ると投稿内容は徐々に下ネタへ。その後も2人は深夜番組らしさを再現し、会場は常に笑いに包まれた。開始から1時間半ほどたったところで、なんと『相棒』に出演する水谷豊からのコメント映像が! 観客からも大きな驚きの声が上がった。イベントの最後は、“本業”であるライブコーナー。パーソナリティーとアーティストの2つの顔を堪能できるイベントだった。
世界チャンピオンに輝いた松永とリスナーが、なんでもありのDJプレイで対決した「地下DMC」
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ライブコーナーでは全7曲を披露。それまでの笑いにあふれた空間が一気にライブ会場へと変貌
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イベント会場とライブビューイングでの鑑賞を合わせると1万5000人以上のリスナーが視聴
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