※日経エンタテインメント! 2022年12月号の記事を再構成

複数のプラットフォームに進出するなど、デジタルで多方面への展開を推し進めている「オールナイトニッポン」。そんな彼らが次に見据えているのが「ストック型への転換」だ。各種プラットフォームでどのような戦略を取っているのだろうか。

 記事「リスナー&広告拡大 オールナイトニッポンが示すラジオの可能性」でも触れたように、「オールナイトニッポン」(以下、ANN)は、積極的なデジタル展開を推し進めている。radikoやポッドキャストといったデジタルプラットフォームは、「ANN」の“拡散”に役立ってきた。そして今、「ANN」のデジタル戦略は次のフェーズに入っている。それは「フロー型からストック型への転換」(ANNプロデューサーの冨山雄一氏)だ。

 例えば、radikoのタイムフリー機能は、基本的に過去1週間以内に放送された番組が無料で聴けるというフロー型。だが、最近は配信したエピソードをアーカイブとして蓄積し、好きなタイミングで聴けるストック型サービスへのシフトを強めているのだ。これは、新規リスナーの獲得に加え、収益の多角化にもつながる。

ポッドキャスト広告も視野

 まず注力する1つが「ポッドキャスト」だ。現在は、『Creepy Nutsのオールナイトニッポン』と『三四郎のオールナイトニッポン0(ZERO)』の短縮版を、Apple MusicやAmazon Musicなどのストリーミングサービスで配信している。「放送の二次利用という形でポッドキャストは早くから活用してきました。現在、ニッポン放送の番組全体では月間1400万~1500万ダウンロードされています。ストリーミングサービスでは、レコメンド機能が働くので、普段聴いている音楽の視聴傾向から偶然『ANN』に出合うといった、これまでとは異なるリスナーの獲得につながっています」(ニッポン放送ビジネス開発局デジタルビジネス室長の浜原晋介氏)。

 さらに21年10月から、地上波では放送しないポッドキャストオリジナルブランド『オールナイトニッポンPODCAST』の制作・配信にも乗り出した。月~金にかけて、トータルテンボス、蛙亭、銀シャリ、アンガールズ、トム・ブラウンの番組を18時から配信している。これは今後の広告市場を見据えた取り組みでもある。

 「海外、特にアメリカでは6年ほど前からポッドキャストの広告が急激に伸びています。リスナーに合わせて広告を切り替えるなど、デジタルメディアならではの技術も広がってきた。現在はまだ将来に向けての投資段階ではありますが、すでにオリジナル番組だけの広告主もついています。ポッドキャストのオリジナル番組は今後も増やしていきたいと考えています」(浜原氏、以下同)

 一方で、メディア独占型のコンテンツ提供も広がっている。21年度からは縦型動画配信サービスアプリ「smash.」と『ANN X(クロス)』がタッグ。山田裕貴、JO1など24時台の生放送が映像とともに楽しめる。映像はアーカイブされ、smash.会員であれば過去動画を楽しむことも可能だ。

 今年5月からは音声ストリーミングサービス「Spotify」での独占配信もスタート。ナインティナイン、霜降り明星、フワちゃん、ぺこぱ、佐久間宣行、マヂカルラブリーの各番組について、楽曲部分を除くすべてのトークを翌日から聴けるようになった(9月より星野源も追加)。こちらも過去の放送回がストックされており、サービス開始以前の放送第1回までさかのぼれる番組もある。いずれも、タッチポイントを増やすことで、新たなリスナー開拓につながっている。

有料サブスクサービスも開始

 さらにニッポン放送では、自社でストック型の有料サービスをスタートした。それが、今年6月にローンチしたサブスクリプションサービス「ANN JAM」(以下「JAM」)と、それに先駆けて21年4月からスタートした『三四郎のオールナイトニッポン0(ZERO)』の番組公式ファンクラブ「バチボコプレミアムリスナー」だ。

 JAMは、人気「ANN」番組の過去音源が月額500円で聴き放題というもの。スタート時には、くりぃむしちゅー、菅田将暉など、2000年以降に放送された30番組が初回放送分から随時配信。番組ラインアップも除々に追加している。現在パーソナリティーを務めるオードリーとCreepy Nuts、久保史緒里(乃木坂46)の3組は、6月以降の最新エピソードに加え、放送開始時のエピソードも公開している。

 「09年に放送がスタートしたオードリーさんなど、長く続く番組では過去に放送された話題が出ることがあります。新規リスナーの方は、その歴史を知らないのでさかのぼりたくなるんですよね。単に昔の放送が懐かしくて聴きたいのであれば、30代以上の方の利用が多くなると思うのですが、JAMの利用者は20代が中心なんです。明らかに、新たに『ANN』を聴き始めた方が増えているということだと感じています」

 三四郎の番組公式ファンクラブ「バチボコプレミアムリスナー」はアーカイブ機能に加えて、限定の録り下ろしラジオや限定ムービー、ここでしか見られないブログなどを提供。JAMとは違う形で、過去のコンテンツを活用するサービスを模索する。こうしたデジタル施策でリスナー、そして収益増が実現できれば、「ANN」の躍進はさらに強固なものになりそうだ。

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