※日経エンタテインメント! 2022年12月号の記事を再構成
今年55周年を迎えた「オールナイトニッポン」(以下ANN)。55年前に番組がスタートした日である10月2日には、東京国際フォーラムにてイベント「オールナイトニッポン55周年記念 Creepy Nutsのオールナイトニッポン『THE LIVE 2022』~オレらの Rootsはあくまでラジオだとは言っ・て・お・き・たい ぜ!~」を開催した。当日は会場に5000人以上の観客を集めたほか、全国の映画館でライブビューイングも行われた一大イベントのメーンアクトは、現在『ANN』月曜日を担当する、ラッパーのR-指定と、DJのDJ松永によるヒップホップユニット・Creepy Nuts。記念日を任され、名実ともに「現在の『ANN』の“顔役”」となった2人は、イベントをこう振り返る。
DJ松永(以下、松永) 「そんな記念すべき日をなんで俺たちに?」という気持ちですよね。
R-指定 「他にもっとふさわしい人おるやろがい!」という(笑)。
松永 絶対に「大抜てき!」ではないよね。ニッポン放送と会場のスケジュールにハマったのが俺らだけだったんじゃないかな。いわばパズルのピースですよ、Creepy Nutsは(笑)。
観客の境界がなくなった
――なんとも屈折した反応だが、Creepy Nutsは16年の単発特番『ANN R』で注目を集め、18年に『ANN 0』でレギュラーを獲得、今年『ANN』へと昇格した。それと並行するように、セールスや動員も伸ばし、12月にはさいたまスーパーアリーナ公演が控える。彼らのスターダムへの道は、「ANN」での成功と軌を一にする部分を強く感じさせる。
松永 イベントのお客さんが、「ラジオリスナー」であると同時に、「僕らのライブのオーディエンス」にも近くなったと思いましたね。番組が始まった頃は、Creepyの音楽を知ってもらう入り口としての「ANN」という部分もあったし、ラジオリスナーとライブのオーディエンスはまた違う感じがあった。だけど今は、その境界がなくなったんじゃないかなと。イベントも、普段のライブと同じような感覚に近かった。
R-指定 もちろん、自分たちが主体であるライブと、ラジオのイベントでは内容も感覚も違うんですけど、それでもつながってる部分は感じましたね。
――番組開始当初と現在では、2人のラジオに対するスタンスも変わってきているという。
松永 最初は毎回「点」を取ろうとしてましたね。「この瞬間を面白くしなきゃ!」と、ずっとファイティングポーズを取ってて、それは昨年ぐらいまでそうだったと思います。でも、最近は「その日その時のテンション」に忠実にやってますね。
R-指定 以前はCMの寸前までどちらかが面白いことを滑り込ませなアカンと思ってたし、情報もパンパンに詰め込もうとしてました。でも、今はそういう感情は弱くなってきているというか。
松永 もちろん、リスナーが楽しく聴けるように、俺らができる範囲での努力はしてるし、そのために会話にスイッチを入れてる部分はあります。
R-指定 うん。マインドは素に近いけど、アウトプットは素よりもテンションは高いし、会話のリズム的にも速いやろうし。
松永 特に自分のしゃべりは、ラジオだと速くなりがちだったけど、今は無理に感情をたかぶらせたり、「かかってる」状態に自分を持っていくことはなくなってきたと思いますね。それに、ラジオを始めた20代半ばの頃のように忙しくしゃべるのはもう似合わないと思うし、加齢でそれが難しくなってる部分もある(笑)。
R-指定 いうても、2人とももう30代なんで(笑)。
会話の攻守交代を楽しむ
――「経年変化」についても自覚しているというCreepy Nuts。そういった変化に「恐怖心」はないのだろうか。
松永 むしろ、気持ちとしてはすごく楽になりましたね。これでもっと長い距離を走り続けられるなって。お互いにある意味「サボれる」ようになって、相手に委ねる部分も増えたし、そこで「予定調和ではない会話」も生まれやすくなりました。
R-指定 自分の話した内容に、相方がどうリアクションするかが未知やからこそ、話し出すことができると思うんですよね。予定調和というか、完全に頭からケツまで自分1人でトークしろと言われたら、それを毎週はできないと思う。それに、自分が自己完結させたいと思うアートフォームは「ラップ」なんですよね。1つの世界をしっかりとリリックで形にして、聴いた人をこんな感情にしたいと投げ掛けるのは、自分にとってはラップという表現。だけどラジオに関しては、松永さんという会話を一緒に楽しんでくれる人や、リスナーからのリアクションもあって、そこから脱線も含めて思いもよらぬ着地点や、発想が引き出されていくことが大事だと思うし、それがCreepy Nutsの『ANN』の醍醐味なので。
松永 会話の役割に融通が利くのも大きいと思いますね。芸人さんみたいにボケとツッコミの役割が決まっていたら、ある程度そのキャラクターに沿わないといけないけど、僕らにはそういう役割がないから、お互いに会話の攻守交代ができるし、受けるのか、返すのか、キレるのか……みたいに、アプローチが広いんですよね。
――では、2人が影響を受けているラジオ番組について聞いてみよう。
松永 僕はずっと言ってるけど『オードリーのANN』。オードリーのように、若林(正恭)さんの持ってきたフリートークを春日(俊彰)さんが受けて、それを笑いにつなげるっていうことを、あの長尺で毎週、10年以上やり続けるのは、もはや異常だと思います。
R-指定 俺はRHYMESTER宇多丸さんの『アフター6ジャンクション』(TBSラジオ)。宇多丸さんの勧める映画や、分析するカルチャーにはやっぱり引きつけられますね。
松永 自分の知らないものだったり、距離の遠いものに興味が湧くよね。自分にとって今は格闘技がそうかもしれない。試合はもちろん、格闘家のやってるYouTubeも片っ端から見てますね。
R-指定 俺も自分の仕事とつながると、素直に楽しめなくなる怖さはありますね。だからこそ、怪談とかホラーは大好きですけど、YouTubeやDVDで見るのも、「これぞ怪談!」というようなレジェンドのほうが多いかもしれないですね。
――放送開始から5年目を迎え、2人にとって『ANN』はどんな存在なのだろうか。
松永 俺は「説明する場所」ですね。例えば、SNSで何かを書くと、届けたくない人や、そもそも俺らに良い印象を持ってない人にも言葉が届いてしまう。だけどラジオにまでたどり着く人は、そもそも自分たちを理解しようとしてくれてると思うんですよね。だから、自分の言葉を発信するのにふさわしいメディアだと思いますね。
R-指定 俺も「伝える場所」かな。実は何かを伝えることにすごく時間が必要なタイプなんですよね。だから、自分の思いの芯の部分を1番そのまま伝えられるのは、ライブでのMCと、そこにつながる曲だったりする。ラジオはそこに至るまでの思いやバックグラウンドを伝えられる場所になってます。今後は先輩や同世代、年下のアーティストをもっと招きたい。「日本語ラップ紹介」含め、やっぱり「ヒップホップラジオ」と自分たちで言っているからには、そこを軸に置き続けたいと思いますね。
松永 日本のシーン全体はもちろん、俺で言えば新潟、Rは大阪みたいに、地元もそして仲間も活性化させたいよね。ヒップホップが自分たちの持ち場だと思うし、そこで勝負しなくちゃいけないなと思っています。
「もともと『ラジオが好き』『ANNが好き』と言ってくれていたお2人。単発を4回やり、『ANN0』を4年やって、1部の『ANN』に上がってという流れを見ると、今の時代の『ANN』の象徴なんじゃないかなと思いますね。」(番組を担当する富山P)
(写真/中川容邦)