2023年、日本最大の佐伯祐三コレクションを収蔵する大阪中之島美術館の作品を中心に、東京では18年ぶり、大阪では15年ぶりとなる大規模な回顧展が開催される。これまで渡仏時代の作品ばかりが評価されてきたが、本展では近年再評価されるようになった一時帰国時代の作品も手厚く紹介。日経トレンディ2023年1月号臨時増刊『日経おとなのOFF2023年絶対見逃せない美術展』 ▼Amazonで購入する では、そんな佐伯の画業の変遷をたどる。
※日経トレンディ2023年1月臨時増刊号より。詳しくは本誌参照

佐伯祐三はパリの街並みを描く風景画家として知られるが、実は、のめり込むように風景を描くようになったのは1924年、25歳でフランスの地を踏んでからだ。その年の夏、モーリス・ヴラマンクに師事していた里見勝蔵にこのフォーヴの巨匠を紹介され絵を見せたところ、「このアカデミック!」と一喝された話はあまりに有名だ。その際、佐伯が見せた絵は裸婦だった。
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第1次渡仏時代
佐伯が自分が描きたい風景を「発見」したのは、この年の末に郊外からパリ市内に移住してから。25年秋にはサロン・ドートンヌでパリを描いた風景画が入選し、ドイツの絵具商が買い上げた。その直後に描いた『壁』は、西洋建築独特の重厚な壁を真正面から捉えた絵で、他の作品にはほとんど見られない日付けまで書き入れ、「佐伯の記念碑的作品だと考えられます」(大阪中之島美術館主任学芸員・高柳有紀子さん)。『壁』は、同じ時期に、先の入選作と同じ場所を描いた『コルドヌリ(靴屋)』と共に出展される。
一時帰国時代
体が弱かった佐伯は26年に一旦帰国するが、「日本の風景は絵にならない」と友人にもらしている。しかし、その日本でもがきながら佐伯が「発見」し繰り返し描いた対象に、低層の建物の上に広がる空に伸びる電柱や、何本ものマストが立った滞船があった。そして、27年に再渡仏した際は、この“線”の要素が作品を埋め尽くすようになる。重厚な石壁を厚塗りで描いていた第1次渡仏時代の風景画とは、明らかに異なるのだ。


第2次渡仏時代
死に至るまで疾走を続ける!
再渡仏後ほどなく描いたと思われる作品に『オプセルヴァトワール附近』がある。「この作品で目を引くのは、空に向かって伸びる木立の枝。前回のフランス滞在時から佐伯が興味を持っていた、パリの町の壁に貼られたポスターの文字もただの線のようになり、次第に線が作品全体を埋め尽くしていく。それがある意味抽象的な表現となったとき、こうした表現は消え、佐伯はもう一度画面に構築性を取り戻そうとするのです」(高柳さん)。同年に描いた代表作『ガス灯と広告』でも、ポスターの文字のみならず人までが線のように描かれている。



28年に佐伯はパリ近郊で病死。初渡仏からたった4年だったが、多いときは1日1、2枚も作品を仕上げ、疾走した日々だった。「当時のパリには日本人画家が数百人ほどいましたが、佐伯には第2次渡仏時には画商がついていた。数多の日本人画家の中で、例外的な高評価を受けたのです。体を壊さなければ、さらなる評価につながった可能性がある」と東京ステーションギャラリー・冨田章館長は指摘する。
今回の展覧会では、大阪中之島美術館の作品を核に、展覧会初出品となる作品も含め約100点余りが出展される。今なお失せない佐伯祐三の魅力と再会できる機会になりそうだ。

場所:東京ステーションギャラリー
会期:2023年1月21日~4月2日
場所:大阪中之島美術館
会期:2023年4月15日~6月25日
(アドバイザー/高柳 有紀子=大阪中之島美術館 主任学芸員、冨田 章=東京ステーションギャラリー 館長)

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