YouTubeマーケ完全マニュアル 第8回

大丸松坂屋百貨店(東京・江東)は2021年から、おせち料理のECサイト販売に力を入れている。販促策としてYouTube広告の活用を強化。従来は既存の販促策の補完的な扱いだったが、21年にはマーケティング策の主軸として活用。10個の動画広告を制作し、グーグルのデータを活用して対象層に配信した。YouTube広告経由のCVR(購入率)を4.7倍に高め、売上高は8.7倍になった。22年はさらに活用を進化させ、YouTubeの広告経由の売り上げは前年比1.2倍で推移している。

大丸松坂屋百貨店はおせち料理の販促にYouTube広告を活用。大きな売り上げ貢献につながった
大丸松坂屋百貨店はおせち料理の販促にYouTube広告を活用。大きな売り上げ貢献につながった

 YouTube広告は商品やブランドの認知度の拡大には効果的だが、直接の購買を促すのは難しい。それがこれまでの定説だった。YouTube利用者は動画の閲覧を目的にWebサイトやアプリを利用している。動画の途中に差し込まれる広告を機に、目的である動画の閲覧を中断し、広告の誘導先を訪れるような行動はとりづらいと考えられていたからだ。だが、その常識は過去のものになりつつある。

 大丸松坂屋百貨店は新型コロナウイルス感染症拡大の影響で、顧客の店舗来店が期待できなくなる中、21年からおせち料理のEC販売に注力している。その販促策として、YouTube広告の活用を本格化させた。大丸松坂屋百貨店の営業本部営業企画部販売促進・インバウンド担当の西本祥子マネジャーは「従来はテレビCMやカタログなどが中心。YouTubeの広告は補完的な存在にすぎなかった」と振り返る。

 だが、21年からはYouTube広告を販促の主軸に据えたマーケティングを展開。その理由はデータ活用にある。百貨店のおせち料理は購入層が限られ、マスな商品とは言いがたい。テレビCMをはじめとするマスメディアの広告は、購入しない層にも多く放送されるため非効率だ。また、商品も5940円(税込み)の1人向け商品から、32万4000円(税込み)の高額商品まで、幅広いラインアップを展開している。広告を1回見ただけで購入を決めることは少ない。繰り返し訴求するために、フリークエンシー(接触回数)を増やそうとすると、テレビCMでは広告の無駄打ちもかさむ。

「おせち」で検索した層を対象に広告配信

 そういった特定の層に効率的に広告を配信するのは、デジタルマーケティングの得意とするところだ。しかも、「おせち料理はニーズが顕在化しやすい。毎年、9月ごろから『おせち』というキーワードの検索数が増加し始めるからだ」と西本氏。YouTube広告はグーグルの持つそうした検索傾向のデータも、広告配信の対象者の絞り込みに活用できるのが強みだ。

 デジタル広告は性年代といったデモグラフィックデータで配信対象を絞り込むことが多いが、おせちに限ってはデモグラデータはあまり役に立たない。それよりも、おせちに関心があるか否かが重要だ。もっとも、検索している層は購入ではなく、レシピなどを検索しているケースも多いだろう。だが、少なくとも「おせち関心層」であることには間違いない。

「おせち」の検索数の推移(Google トレンド)
「おせち」の検索数の推移(Google トレンド)
「おせち」の検索数は9月ごろから増加し始める。ニーズの顕在化に合わせて、「おせち関心層」を対象にYouTube広告を配信した(縦軸は指数)

 そこでおせち関心層に絞った、効率的なマーケティング施策を実施するうえで、YouTubeを重要な消費者接点の1つとして活用した。YouTubeはそもそも認知拡大に向く媒体だ。「他社と差異化を図るために肉料理を中心としたおせちなど、当社独自の商品を開発している。その魅力を静止画の広告だけで伝えるのは難しい。よりリッチな表現情報を伝えたかった」と大丸松坂屋百貨店営業本部MDコンテンツ開発第2部フーズ担当の内藤真光氏は言う。動画広告なら、多面的に情報を伝えられると考えて、YouTube広告の活用に白羽の矢が立った。

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