
酒造会社の眞露(東京・港)は2021年から22年にかけて、韓国焼酎「チャミスル」のマーケティングにYouTube広告を活用した。韓国ドラマの定番シーンを「韓国ドラマあるある」としてまとめた動画広告は、いずれも数分間と長尺。にもかかわらず、完全視聴率は20%という驚異的な数値をたたき出した。20年夏の調査では17%だった飲酒層のチャミスルの認知度は、22年秋には51%超と飛躍的に高まった。成功の裏側には、テレビCMをそのままYouTube広告として配信する失敗を経て得た学びがある。
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韓国ドラマ好きなら思わず、にやりとするようなシーンを詰め込んだ「韓国ドラマあるある」動画の一幕だ。俳優の小関裕太と佐久間由衣が熱演し、本場の韓国ドラマさながらの映像に仕上がっている。制作したのは、酒造会社の眞露。チャミスルの販促を狙って、YouTubeで配信した動画広告だ。
特筆すべきは、動画広告の長さにある。2021年12月に公開した第1弾は4分弱、22年4月公開の第2弾にいたっては6分超だ。「YouTubeの動画広告は30~60秒の長さであることが、グーグルからも推奨されている」と動画制作支援会社リチカ(東京・渋谷)事業開発部事業開発責任者の妹尾浩充氏が言うだけに、その長さの異例さがうかがえる。
再生回数は第1弾が359万回、第2弾で352万回といずれも大きな話題を呼んだ。しかも、動画の視聴者のうち、最後まで見た比率を表す「完全視聴率」は6分超の第2弾で20%と驚異的な数値をたたき出した。「YouTubeの広告は、95%が最初の5秒で離脱する」(デジタルマーケティング支援会社Kaizen Platform動画事業部の大塚宥吾部長)と言われるだけに、恋するチャミスルの数値の高さが際立つ。
動画広告は、事業にも高い成果をもたらした。第1弾の動画広告を配信した21年12月は、チャミスルの売り上げが1.6倍に増加。20年夏の調査時点で17%だった飲酒層におけるチャミスルの認知度は、51%へと大きく跳ね上がった。
チャミスルの販促に大きく貢献したこの動画広告は、実は意図的に長尺として制作されたものだ。眞露のマーケティング部門長の朴商佖氏は「YouTubeの広告は関心がないと思われれば、ボタン1つでスキップできる。広告であっても面白いと思われなければ、効果は期待できない」と言い切る。
動画としての面白さを追求するには、30秒や60秒といった一般的な動画広告の長さでは足りないと考え、常識にとらわれない動画広告制作に挑んだ。その背景には、「テレビCMをそのまま動画広告としてYouTubeで配信」によって味わった失敗がある。
テレビCMをそのまま転用で効果なしの理由
眞露は20年からYouTubeの広告を本格的に活用し始めた。「チャミスルの市場を拡大するために、テレビCMを放送した。テレビでリーチできない層にも届けるため、テレビCMをそのままYouTubeにも広告として配信した」(朴氏)。ところが、その成果は期待を大きく下回った。「インプレッション(表示回数)は大きく、対象層にリーチはできた。ただし、それによる事業への変化は何も出なかった」と朴氏は振り返る。
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