YouTubeマーケ完全マニュアル 第3回

すしチェーンのくら寿司のYouTubeチャンネルが急成長している。この半年で登録者数は6倍超に増えた。きっかけはたった1本の短尺動画だ。再生回数は1600万回(2022年12月15時時点)を超える大きな反響を生み出している。広報担当者が「企業YouTuber」となり、「人」を打ち出した動画運用で成果につなげた。

くら寿司の「企業YouTuber」として活躍する広報・マーケティング部販売促進部の稲葉亘平氏。握りこぶしをつくり両腕を上げながら「イナバです! ズ」と発するのが、稲葉氏のお決まりフレーズ。以前は「ズチャズチャズ♪」と言っていたが、いつの間にか省略形の「ズ」になったという
くら寿司の「企業YouTuber」として活躍する広報・マーケティング部販売促進部の稲葉亘平氏。握りこぶしをつくり両腕を上げながら「イナバです! ズ」と発するのが、稲葉氏のお決まりフレーズ。以前は「ズチャズチャズ♪」と言っていたが、いつの間にか省略形の「ズ」になったという

 くら寿司が運営するYouTubeチャンネル「くら寿司 178ニュース」に1本の短尺動画(YouTubeショート)を投稿すると、3カ月後に異変が起きた。それまでじわじわと伸びていた再生回数が、突然急激に伸びたのだ。まさに「バズっている」という状態になり、7000人ほどだったチャンネル登録者数が急増。登録者数4万5000人(22年12月15日時点)を超える起爆剤となった。その動画の再生回数は、1600万回(同)を突破している。

チャンネル登録者数が一気に増えるきっかけになったショート動画「くら寿司 お皿の行方」

 本特集の第2回でも紹介したとおり、YouTubeショートでのヒットをきっかけにチャンネル登録者数が一気に増える例は少なくない。まさにくら寿司もこの“流れ“に乗った形だ。しかし、いくらそうしたトレンドがあるとはいえ、このヒットは偶然の産物ではない。くら寿司が20年のYouTubeチャンネル開設以来、あらゆるチャレンジをした結果、「ヒットにつながりやすいコンテンツ」にたどりついたのだ。

生粋の「くら寿司ファン」だからこそ、生の声が視聴者に響く

 くら寿司がYouTubeで1本目の動画を公開したのは、20年元旦。チャンネルのメインの演者を務める、くら寿司の稲葉亘平氏が所属する販売促進部では日ごろから、店舗や商品のPRや販促につながる企画を求められている。その中で稲葉氏が提案したのが、紙やテキストでは表現しにくい商品の魅力を動画にし、YouTubeで発信することだった。

 稲葉氏の中では明確に、「こういう表現をしながら食べたらいいのではないか」「テンポよく商品を紹介したら面白いのではないか」というアイデアが浮かんでいた。実際にYouTubeで公開した場合のイメージ動画を撮影し、社内でプレゼンするとそのアイデアが採用され、稲葉氏本人が出演することになった。

 稲葉氏がメインの演者として起用されることになったのは、企画立案者だからという理由だけではない。「会社の顔として出る以上一番重要だった」と広報・マーケティング本部広報部マネージャーの辻明宏氏が話すのは、「くら寿司愛が伝わってくること」だ。

 稲葉氏は、アルバイト時代から長らくくら寿司で働き、取材中も満面の笑みで、「(くら寿司は)めちゃくちゃおいしい」と語る生粋のくら寿司ファン。その稲葉氏が動画の中で、おすしを食べながら見せるおいしそうな表情や味に対する感想は、見ている方も思わず喉をごくりと鳴らしてしまうリアリティーがある。

 その“生の声”が受けているのだろう。くら寿司のYouTubeのコメント欄には、「いつもイナバさんの紹介でくら寿司行きたくなるから、たくさんshort(※ショート動画)出して欲しい」「食べてみたい」「ぅふぅー(※稲葉氏が食べた直後の感想)の感覚にひたりにいきますー! 普段のかつおもおいしいのに、これは食べない理由が、見当たらない!」など、来店の動機になっていると思われる好意的なコメントが並ぶ。

ダンス動画にも挑戦。社員からの「だめ出し」を改善につなげる

 今でこそ多くのファンから絶えずコメントが寄せられる人気チャンネルになったものの、チャンネル開設当初から順調だったわけではない。YouTubeでの配信はもともと稲葉氏ともう1人の社員の2人でスタートした。2人とも動画制作に関しては素人だ。すべて手探りで始めたこともあり、初期の頃は、稲葉氏の朝の支度の様子を紹介する「モーニングルーティーン」や、稲葉氏が切れ味よく踊る「【HANDCLAP】2週間で10㎏痩せるダンスを踊ってみました」など、直接くら寿司とは関係のない動画も公開してきた。

 「初期の頃は何が当たるか分からないので、できることをいろいろやってみた。しかしヒットにはつながらなかった」(稲葉氏)

 幸いYouTubeは社内からの注目度が高かったことから、視聴した社員からの「だめ出し」や、視聴者の反応を見ながら、再生回数につながらないポイントを蓄積していった。そうしたポイントをチャンネルで利用できる解析ツール「YouTubeアナリティクス」のデータと照らし合わせながらどんどん改善を続けていくうちに、「(コンテンツの方向性が)狭まっていった」(稲葉氏)。徐々に、くら寿司のチャンネルではどんな動画を配信すべきか方向性が見えてきたのだ。

 なおくら寿司では、YouTubeでどのような企画を行ったらいいか、稲葉氏をはじめ社員3人で月に1回企画会議を行っており、そこで話をしているうちに新たな企画が誕生することも多いという。

企画会議中にあがったアイデアにより実現した長尺動画「くら寿司 お皿1000枚入れてみた」。YouTubeらしい大胆な企画が視聴者に支持され、1万回以上(2022年12月15日時点)再生されている

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