日本に響いたキャッチコピー&CM 2022 第3回

THE BLUE HEARTSの楽曲をBGMに、新旧の映画をつなぎ合わせた映像と吉高由里子の語りが印象的なサントリーホールディングスの広告。新型コロナウイルス禍、営業時間の短縮要請や来店客減少で苦境に陥った飲食店への応援として打ち出された「人生には、飲食店がいる。」というメッセージで、朝日広告賞の2021年度「広告主参加の部」最高賞や、東京コピーライターズクラブが主催するTCC賞の22年度「TCCグランプリ」を獲得し、22年を代表する広告となった。制作の背景を聞いた。

飲食店への応援として打ち出されたコピーは、生活者にも響いた
飲食店への応援として打ち出されたコピーは、生活者にも響いた

 「当時は飲食店さんを助けたい、応援したいと思っても、なかなかみんなで飲食店さんに飲みにいこう、と呼び掛けられる感じでもなくて。とても難しかった」。サントリーホールディングス コミュニケーションデザイン本部 宣伝部 制作グループ課長クリエイティブディレクターの菅野紘樹氏は振り返る。

 「サントリーにとって飲食店は、ただ商品を扱っていただくお客様という存在ではない。創業以来、お酒や飲料の提供を通じて、人と人がつながる大切な場所や飲食店文化を一緒につくってきたパートナーだという感覚がある」(菅野氏)

 21年になると徐々に営業自粛や時短営業が解除されてきたが、飲食店にはそれでもなかなか客足が戻らず、苦しむ状況が続いた。そんな状況を見て、同社は広告などのコミュニケーションでさらなる応援の思いを伝えたいと考えたという。飲食店と直接やり取りする営業部からも、「苦しむ飲食店をコミュニケーションの力で何とか支援できないか」という声が上がってきていた。

 それにはどんなメッセージがいいのか。議論を重ねる中で、企画チームの1人が不意にこうつぶやいた。「私たちでさえ、家でご飯を食べてお酒を飲むのが当たり前になって、飲みに行こうと思うこと自体が減っているんですよね」。チームの全員が同じ状況であることに気づかされたことが、次なるコミュニケーションのアイデアにつながっていったという。

 クリエーティブを手掛けた電通/Dentsu Lab Tokyoの田中直基氏はこう話す。「新型コロナウイルスまん延が、飲食店を閉じることによって防げるんじゃないかというように、世の中の風潮として飲食店の立場が苦しい時期があった。でも僕自身のことを思い返したとき、例えば部活で試合に勝った日や負けた日に仲間と喜びや悲しみを分かち合ったり、仕事の悩みを同期に聞いてもらったり、好きな人に思いを伝えに行ったりと、飲食店はただご飯を食べたりお酒を飲んだりする場所ではなくて、もっと意味のある場だったなと思ったんです。実は人生のいろいろな場面で僕らは飲食店に支えられていたんだと気づいた。人をつなぐ場所であるということをちゃんと言おうということで、企画が進んでいった」

 企業が飲食店を肯定する発信をすることは、当時、かなりのリスクになり得たともいう。だが、飲食店に行こうと呼び掛けるのではなく、飲食店が人生において意味がある場所であるというみんなが忘れている事実に視聴者にも気づいてもらうことならできるだろうと、一気に企画がまとまっていった。

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