
米アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)の技術説明会「re:Invent 2022」では、同社クラウドサービスのユーザー事例も複数紹介された。先進企業はビッグデータをどう活用し、ユーザーに向けた利便性を生み出しているのか。旅行サイトの米エクスペディアや製薬大手の英アストラゼネカなどの取り組みを紹介する。
re:Invent 2022の2日目となる2022年11月29日の基調講演で、AWSのアダム・セリプスキーCEO(最高経営責任者)は、6500光年のかなたにある宇宙に浮かぶ天体「創造の柱(M16わし星雲の中にある柱状のガス塊)」の写真を見せた。ハッブル宇宙望遠鏡は1995年と2014年に同天体を撮影している。その画像と2022年にNASA(米航空宇宙局)のジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡が撮影した映像を並べて見比べると、最新の写真では、従来の技術では捉えられなかった無数の小さな星が確認できる。
新しい技術で捉えた数々の新星と同じように、技術の進歩に伴って企業が扱うデータも膨大な量に増えていくとセリプスキー氏は説明した。あるアナリストの予測によると、デジタル時代が到来してからこれまでにつくられてきた累計のデータ量に対し、今後5年間で2倍以上のデータが生成されるという。それら膨大なデータをどのように扱い、成果を生み出していくのか。イベント内では、多数の先進企業によるデータ活用、AI(人工知能)による分析の手法が披露された。その概要を紹介していこう。
AIが年間6000億件の予測処理
まずは日々多くのユーザーが訪問し、閲覧履歴やコンバージョン(購入やユーザー登録などの成果)などを含む多彩なデータが記録されるウェブサービスの例からだ。
米マイクロソフトの一部門として旅行支援サイトの「Expedia(エクスペディア)」が登場してから25年。現在では世界で1億6800万人以上の会員を、ホテルなど300万以上の施設とつなぐサービスに成長した。エクスペディアグループCTO(最高技術責任者)でエクスペディア製品&技術担当プレジデントのラティ・マーシー氏は「根底を技術が支えるテクノロジー企業だ」と言う。
同社は10年以上にわたり旅行者の行動、予約パターン、好みといった利用動向データを蓄積してきた。それらクラウド内のビッグデータを機械学習で分析し、サービスの利便性を高めるために活用している。70ペタバイト以上のデータを使って、年間に6000億件以上のAIによる予測を処理している。ユーザーがページを訪問したときには、36万通り以上から、関連性が高い選択肢をAIが推薦する。
旅行者のために常にインフラを最新の状態に保つことを重視しており、AWSのクラウドサーバーを効率良く利用するために「コンテナ」と呼ばれる領域に分けて利用する形態に移行した。データベースやAIのツールを動作させることで「旅行者に関連する写真やレビューの情報をミリ秒以下、99%以上の精度で表示できる」(マーシー氏)という体制にしている。
2900万以上のバーチャル会話を用意した音声チャットを活用することで、コールセンター担当者の対応時間を800万時間以上節約したという。22年初頭からは「価格の追跡と予測」という機能を加えた。航空券の購入価格の推移データを機械学習し、旅行者がチケットを購入するのに最適なタイミングをアドバイスする。そうしたExpediaのサービス機能をオープン化して、中小規模のスタートアップと新サービスの創出を目指す「オープンワールド」という取り組みも実施している。
GPSの軌跡でEVの存在を予測
デジタルだけでなくリアル世界と融合したサービスの例も見せた。独BMWはサステナブル(持続可能)な社会に向けたAI活用の取り組みを紹介した。小型の電気自動車(EV)「BMW i Vision Circular」のイメージを見せ、このコンセプトモデルが表しているような「未来は電気、デジタル、循環経済にあると信じている」とBMWグループでデータ変革やAI技術を統括するジェネラルマネジャーのマルコ・ガーグマイヤー氏は語った。
同社ではAIなどのデータ分析に4万人以上の従業員が参加して、温暖化ガスの70%を生み出しているといわれる都市部のモビリティーに関するデータ活用の研究を進めている。例えば、機械学習で大量の交通データを分析し、EVが普及することによって地域の交通量や温暖化ガスの排出量がどのように削減されるかを予測し、充電インフラが十分でない地域を特定するといった具合だ。
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