
商品管理から顧客との対話まで、今やあらゆる業務がネット上で完結する。クラウド業界で中核的な存在の米アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)は、そうしたサービスの土壌となる技術を提供する。AWSが米ラスベガスで2022年11月末から開催した技術説明会「re:Invent 2022」から、マーケターとして知っておくべき最新クラウド技術を解説する。
新型コロナウイルス感染症拡大の余波が続き、海外の紛争による資源の不足やインフレによる景気停滞と「不確実な時代」が続いている。「ビジネスを縮小し、スピードを落としたいという誘惑に駆られるかもしれないが、こうした時期こそクラウドに傾注すべきだ」。AWSが2022年11月28日から米ラスベガスで開催した説明会「re:Invent 2022」の基調講演で、AWSのアダム・セリプスキーCEO(最高経営責任者)は強調した。
クラウドサービスを活用すれば、自社内でサーバーなどのハードウエアを購入する必要はなく、使いたいときに使いたいだけのコンピューター資源に対して料金を支払えばよいため、柔軟なコスト運用ができる。例えば、民泊大手の米エアビーアンドビーは、19年に主にAWSのクラウドを活用する体制に切り替えており、20年のパンデミック時に需要が落ち込んだ際には素早く27%のサーバー費用を削減できたという。
「正しいツールを使えば、どのような環境でも生き残ることができ、さらには成長できる」とセリプスキー氏は語り、クラウドサービスの新機能を多数紹介した。インフレなどによる不確実性の荒波を乗り越え、新たなビジネス構築を目指すマーケターにとって注目となる、以下の7つの注目機能を紹介していこう。
(1)Zero-ETL(ゼロETL)
(2)Amazon DataZone(アマゾンデータゾーン)
(3)ML-powered forecasting with Q(MLパワード・フォーキャスティング・ウィズQ)
(4)AWS Clean Rooms(AWSクリーンルームズ)
(5)AWS Supply Chain(AWSサプライチェーン)
(6)AWS SimSpace Weaver(AWSシムスペースウィーバー)
(7)Amazon one(アマゾンワン)
データベース間の調整を自動化
まずはデータベースを統合する技術から。それがマーケティングにどう関係するのか、疑問に思うかもしれない。少し複雑になるが、順を追って説明していこう。
あるオンラインショップが、顧客の定着率を高めるために特別なクーポンを配るという施策を考えたとする。やみくもにクーポンを配れば、値下げ分で収益が圧迫される可能性があるので、離脱しそうな人だけにピンポイントでクーポンを送りたい。アプリの利用状況と、ウェブサイトに書かれたカスタマーレビューの内容を照らし合わせ、退会しそうな人を絞り込むのはどうか――。
言葉で言うと簡単そうだが、データを扱う技術者泣かせの注文となる。性質が異なるデータを一緒くたに扱っているからだ。まずアプリの利用状況は、例えば「ここ1週間でアプリを開いたか」「買い物かごの商品を放置しているか」など、それぞれのデータの意味が明らかな状態で記録されている。このような、意味とひも付いたデータのことを構造化データという。
一方、カスタマーレビューの内容は人間の言葉で書かれているので、そのままではコンピューターは処理ができない。こうしたデータを非構造化データという。音声や映像、PDF文書なども非構造化データとなる。非構造化データをコンピューターが扱えるようにするにはAI(人工知能)を使って、分析しやすい状態へとデータを成形するETL(抽出、変換、ロード)という処理が必要となる。
ETLを加えたデータはデータウエアハウスという場所に保管する。そうなって初めて構造化データを集めたデータベースと連係できる。ETLの仕組みを構築するには煩雑な手作業が必要で、大量のカスタムコードを書く力仕事が必要となるため「感謝されず、持続不可能なブラックホール」(セリプスキー氏)と呼ばれているのだという。
AWSもこうした作業を自動化するツールを提供していくという。今回のイベントではそれらサーバーの接続や、AIによるETLの作業を自動化する「Zero-ETL」に関する技術を発表し、関連ツールのプレビュー版の提供も開始した。SNSには「Zero-ETLだって!?」と驚きの声を上げる技術者のつぶやきも多数見られた。こうした技術が広がることで、マーケターとしてもより効果の高い分析やマーケ施策を気軽に取り組めるようになっていくはずだ。
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