
今回の特集の最後に、デザイナー教育などを手がけるコンセント(東京・渋谷)の特別寄稿を掲載する。同社のデザインマネージャー/サービスデザイナーの大﨑優氏は、企業が変化しデザインのキャリアが複雑化した今、デザイナーの成長は協力と協働の考えが鍵になるという。それらを実現するスキルとは何か。
ビジュアルやUI(ユーザーインターフェース)のデザインから体験のデザインへ、さらにビジネスモデルやエコシステムへのデザインへと、デザイナーの活躍の場が広がっている。美大・芸大といった造形分野だけでなく、経営やマーケティングといったビジネス分野や、心理学や社会学といった領域を学んだ人材も含め、デザインを支える人材の多様化が進んでいる。業態や規模を問わず、企業や行政機関のデザイナー採用も活発だ。ここ数年でデザイン活用に目覚めたという企業も少なくない。
スキルアップの道筋が見えない
このような背景と連動し、デザイナーの戸惑いの声が増えてきた。キャッチアップすべき技術の幅が広すぎる、明確なロールモデルが存在せず指針を築けないといったものだ。
中でも中堅以上のデザイナーからは、デザインとビジネスの習得バランスや、技術の最新化と学び直しといった課題もよく耳にする。若手時代に個人技能としてのデザインだけを身につけたため、近年の「共創」的な集団技能としてのデザイン領域に苦手意識があるといった声も聞く。
ときには企業のデザイン組織の構造がその問題をさらに難しくする。例えば事業部や対応プロダクト、部署ごとにデザイン組織が分散している場合では、統合的かつ戦略的なデザイナー育成をすることができていない。デザイナーは目の前の仕事に忙殺され、担当範囲の技術は向上するが、それを超えた発展的な能力を身につけにくくなっている。
企業内にデザイナーがごく少数しかいない場合は、そもそもスキルアップが論点化されていないことも多い。それは特にデザイナー採用を始めたばかりといった企業に顕著だ。
デザイナーのスキルアップは、これまで属人的な徒弟関係や、個人の研鑽に頼ることが多く、抽象的な「センス」重視の技術観が根付いていたこともあったために体系化が進んでいなかった。良くも悪くも、プロフェッショナルである価値観が自他ともにあるため、育成に関しても自己責任論に帰着することが常であった。そのような傾向から、スキルアップに関する本格的な仕組み化が進んでいない状況にある。
技術の目線がそろわずに混乱も
数年前、筆者が在籍するデザイン会社のコンセントにおいても、習得技術の幅広さやロールモデルが曖昧である課題が深刻になり、複数の社員の離職につながるという危機を経験した。当時のコンセントでは事業開発や体験設計を担当するサービスデザイン部門と、Webサイトや紙メディアを制作するコミュニケーションデザイン部門が存在していた。若手デザイナーは、それらの部門を横断して業務を行い、年度ごとの配置換えも実施している状況であった。
にもかかわらず、現場では明確な技術要件が可視化されておらず、育成方法もバラバラであった。部門間で技術に関する認識や「哲学」が食い違い、例えば、自分の守備範囲外のデザインスキルを軽視してしまうなど、価値観や文化の齟齬(そご)も生まれていた。そのような混乱の中、若手デザイナーが技術の成熟を前にして会社を去るという苦い経験をした。
「技術マトリクス」による可視化
そこでコンセントではデザインの技術を一覧にした「技術マトリクス」を作成し、育成に活用するようにした。
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