デザインの価値、デザイナーのスキル 第6回

デザイン経営やテクノロジーへの理解がますます問われるようになった今、デザイナーに必要なスキルとは何か。博報堂のDXチームhakuhodo DXDを率いる入江謙太氏に、これから求められるデザインとデザイナーについて聞いた。

「アレンジできて印象は変わらない。柔軟なデザインが必要な局面が増えている」(写真/名児耶 洋)
「アレンジできて印象は変わらない。柔軟なデザインが必要な局面が増えている」(写真/名児耶 洋)
入江 謙太(いりえ けんた)氏
hakuhodo DXD チームリーダー
複数年にわたって機能するUX(ユーザーエクスペリエンス)やサービスの開発を中心に行う専門チーム、hakuhodo DXDをリード。アートディレクション、テクニカルディレクション、サービスデザインの3つから成る職種混合型チームで、構想から開発、成長までを一気通貫で担う

――入江さんは、テクニカルディレクターやアートディレクター、UXストラテジストなど各分野のプロフェッショナルが一体となり、ブランディングやサービスデザイン、新規事業開発などを手掛けるプロジェクトチームhakuhodo DXD(以下DXD)を率いています。テクノロジーが進化し続ける今、どういったデザインが求められているのでしょうか。

入江謙太氏(以下、入江)これまで企業やブランドのシンボルであるロゴマークは、レギュレーションどおりに使用するもので、勝手に動かしたりできない強固なデザインが一般的でした。しかし、デジタル化が進んでいる今は、ポスターやカタログなどオフラインのメディアに加え、Webサイトやアプリ、SNS、動画広告、バナー広告など、ロゴマークはさまざまなメディアで展開されるので、デザインに関わる人たちが「使いやすいデザイン」であることも重要です。使いやすいデザインとは、メディアの特性によってアレンジが可能でありつつ、印象は変わらないもの。柔軟なデザインが必要とされる局面は、増えていると思います。

 デザインの体験方法も、紙メディアとデジタルメディアでは違います。グラフィックは「見て感じる」ものですが、デジタルのデザインは「触って体験する」ものです。例えばスクリーン上のデザインは、顧客データを獲得したり蓄積したりするための「入り口」なので、ボタンをクリックしたら、その人は「購入意欲がある」「関心がある」とデータ上では読み取られる。つまり、スクリーン上のデザインは、顧客の分析やマーケティングに深く関与するものなので、そのことは常に意識しておく必要があります。

 デザインの領域が広がっている中で、企業やブランドのビジョンも含ませながら世界観をしっかりつくり込めるのが、今の時代のアートディレクターだと思います。DXDのアートディレクターは、広告や商品のパッケージなどのグラフィックデザインだけでなく、サービスや体験のデザインなど、デジタルのオンラインとアナログのオフラインをまたぎ、トータルで手掛けています。

3Dアバター試着サービスのプロトタイプ「じぶんランウェイ」のデモ画面。スマートフォンのアプリで操作する(画像提供/博報堂)
3Dアバター試着サービスのプロトタイプ「じぶんランウェイ」のデモ画面。スマートフォンのアプリで操作する(画像提供/博報堂)
専用の筐体(きょうたい)でボディースキャンを行い、自分のアバターを作成。アプリ内にあるコーディネートを複数選び、その服を着た自分が次々とランウェイを歩く。リアルで楽しい試着体験になるように、歩いて服が揺れる様子や影の表現など、DXDのアートディレクターがテクニカルディレクター、エンジニアと共に開発した(画像提供/博報堂)
専用の筐体(きょうたい)でボディースキャンを行い、自分のアバターを作成。アプリ内にあるコーディネートを複数選び、その服を着た自分が次々とランウェイを歩く。リアルで楽しい試着体験になるように、歩いて服が揺れる様子や影の表現など、DXDのアートディレクターがテクニカルディレクター、エンジニアと共に開発した(画像提供/博報堂)

クライアントに伴走して分かること

――デザイナーが考えなければいけないことは、確実に増えていますね。そんな状況で、デザイナーはどのようにステップアップしていくのが良いのでしょうか。

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