猫の多くは腎臓病で命を落とす。そんな“宿命”から猫を救うかもしれないと注目されているのが「AIM(エーアイエム)」と呼ばれる血中たんぱく質だ。2022年にはAIMを活性化させるというキャットフードも発売。AIMの研究について、発見者の宮崎徹氏に聞いた。

※日経トレンディ2023年1月号より。詳しくは本誌参照

AIM医学研究所 宮崎 徹氏
AIM医学研究所 宮崎 徹氏
AIM医学研究所 宮崎 徹氏
1986年東京大学医学部医学科卒、医学部附属病院第三内科に入局。06年より22年まで東京大学大学院医学系研究科教授を歴任。22年4月より一般社団法人AIM医学研究所代表理事・所長。

猫の“宿命”を遠ざける「AIM」を発見 専門分野を超えてブレイクスルーを起こす

 AIMを発見したのは本当に偶然です。スイスの免疫学研究所にいたときに、動物の血液中に存在する未知のたんぱく質を見つけ、AIMと名付けて論文発表しました。ただ、あれこれ試しても存在理由が分からない。暗中模索の状態が続きました。

 状況を打開するヒントになったのは、偶然目にした専門外の論文の動脈硬化とAIMの関連性でした。それをきっかけに実験を繰り返した結果、動脈硬化にAIMが強く関連していることが分かったのです。私はそれまで自分の専門である免疫学的な視点からしか研究していなかったので大きな衝撃を受けました。

 そこを起点に肝臓がんや腎不全など、様々な病気とAIMの関連が分かってきました。これらの病気は、死んだ細胞や壊れたたんぱく質が“ゴミ”となり、体内に蓄積することが要因の一つとも考えられています。AIMにはそうしたゴミを掃除する作用があり、それによって病気の発症が抑えられている。そこにたどり着いたのが2015年頃でした。

 動物のAIMを調べたら猫だけが少なかった。講演でそれを紹介したところ、参加していた獣医の方から「多くの猫は腎不全になる」という話を聞いたのです。猫の宿命とAIMがつながった瞬間でした。

 通常、AIMはIgMという抗体と結合しており、ゴミがたまると分離して掃除します。しかし、猫の場合は、実はAIMは持っているものの、IgMとAIMが強く結合しているため、ゴミがたまっても分離したAIMがほぼ無いことが分かりました。それが原因で腎臓に老廃物が蓄積し、腎不全を起こしていたのです。腎不全を回避できれば、約15年といわれる猫の寿命を倍にできるのではと思いました。

 そこで腎不全を起こした猫にAIMを投与する試験を行ったのですが、その結果には私も驚きました。「余命1週間」と宣告された猫が、AIMを投与すると立ち上がり、最終的には動き回るようになったのです。

 何らかの原因で腎臓を悪くし、大変な思いをして人工透析を続けている人は実に多くいます。まずは劇的な効果を示した猫の腎臓病薬の開発を進めることで、人間に使える医薬品開発への筋道も立てられるのではと考え、研究開発に取り組みました。

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