2022年に創業50周年を迎えた「モスバーガー」が好調だ。展開するモスフードサービスの売上高は直近3期連続で前年を超え、22年3月期は過去最高の784億円を記録した。近年の勢いをマーケティング面で支える千原一晃氏が語る。

※日経トレンディ2023年1月号より。詳しくは本誌参照

モスフードサービス 執行役員 マーケティング本部副本部長 千原一晃 氏
モスフードサービス 執行役員 マーケティング本部副本部長 千原一晃 氏
モスフードサービス 執行役員 マーケティング本部副本部長 千原一晃 氏
1964年生まれ。88年モスフードサービス入社。94年にマーケティング室、以降、直営部などを経て2019年にマーケティング本部に異動。22年より現職。学生時代にモスバーガーでアルバイト経験がある

 2019年に、10年以上ぶりにマーケティングを担当することになって驚いたのが、20代以下の顧客比率の低下です。15年は35%を占めていたのに、20年は23%にまで落ち込みました。しかも、その傾向が止まる気配はない。危機感を持った私たちは、それ以降、20代以下の若年層、いわゆるZ世代の取り込みを重要課題と位置付けています。

 22年は定番商品の「テリヤキバーガー」を使って訴求しました。「テリヤキ」は当社が初めてハンバーガーとして世に出したジャンルの商品ですが、それを知らないZ世代は大勢います。商品開発部門は改良し、例えばソースは若い世代の舌に合わせて、すっきり感じるキレを出しました。

 ではマーケティング部門は何をしたか。食べれば満足してもらえると確信していたので、まずは店を訪れてもらう必要があると判断。看板商品なのでこれまではテレビCMは不要と考えていましたが、初めて放送しました。Snow Manのラウールさんと渡辺翔太さんを起用したところ大成功。22年3月に発売し、翌4月には単月で過去最高の売り上げでした。

 Z世代の顧客離れを止めるために、最先端分野にも挑戦しています。22年9月、新商品「月見フォカッチャ」(期間限定、現在は終売)の発売に合わせてメタバース上に仮想店舗「モスバーガー ON THE MOON(オン ザ ムーン)」をオープン。Z世代を中心に延べ2万人が“来店”し、地球を眺めながら食事をしたり、月見フォカッチャを作ったりする仮想体験を楽しんでいる。SNS(交流サイト)に「店に行って食べたくなった」などと投稿され、確かな手応えを感じています。

 この月見フォカッチャでは、当店のメイン顧客である30代、40代の女性に向けて、アニメ「美少女戦士セーラームーン」をイメージキャラクターに抜てきしています。幼い頃に慣れ親しんだセーラームーンが名セリフになぞらえた「月見にかわって、おいしいよ。」とテレビCMで訴求する戦略も的中。発売8日間で当初の販売目標の半分に当たる80万食を売り切り、販売を一時休止するほどの反響でした。

 外食産業である当社がメタバースに進出するのは、とっぴな発想と思われるかもしれません。漫画・アニメのキャラクターのテレビCM起用は当社にとって初の試みでもあります。しかし実は、テリヤキバーガーなど和風テイストの商品や地域密着といったこれまでの独自戦略が示す通り、革新こそが「モスらしさ」の原点です。そして、その気概は成功体験の積み重ねで、いつの間にか薄れていたことも認めなければいけません。Z世代による顧客離れが、再び挑戦するきっかけになりました。

この記事は会員限定(無料)です。

有料会員になると全記事をお読みいただけるのはもちろん
  • ①2000以上の先進事例を探せるデータベース
  • ②未来の出来事を把握し消費を予測「未来消費カレンダー」
  • ③日経トレンディ、日経デザイン最新号もデジタルで読める
  • ④スキルアップに役立つ最新動画セミナー
ほか、使えるサービスが盛りだくさんです。<有料会員の詳細はこちら>
9
この記事をいいね!する