開成中・高から東大法学部卒と超のつく高学歴ながら、昼は会社員、夜は小説を執筆する兼業作家の道を選んだ結城真一郎氏。22年6月発売の短編集『#真相をお話しします』が13万部のヒット、YouTubeなどの動画メディアの特徴を意識的に取り入れ、読書離れの進む若い世代からも支持を集めている。
※日経トレンディ2023年1月号より。詳しくは本誌参照
――13万部のヒットとなっている『真相をお話します』(新潮社)では、マッチングアプリやリモート飲み会など、作品の中に身近で現代的な話題を巧みに取り入れています。
ミステリーの面白さを考えるうえで外せない要素として、「得体の知れない相手」の存在があります。嵐の夜、山荘で殺人が起こり、そこに偶然居合わせた人間たちの中で誰が犯人なのか。限られた情報の中から探り合いの駆け引きが繰り広げられる展開は、ミステリーの王道です。
実は現代のネット社会もまた、未知の状態から探り合いで始まる人間関係が増えたことで、日常の中に「ミステリー」が溶け込む時代だといえます。SNSで頻繁に言葉を交わす人が実生活では何者なのか全く知らなかったり、マッチングアプリで出会った相手のプロフィールの真偽や、メッセージの真意を探ろうとしたり。
今『小説すばる』(集英社)で連載中の「ゴーストレストラン」シリーズは、フードデリバリーサービスを題材としています。これも「Uber Eats」などのギグワーカーによる配達の仕組みの中にある、ミステリー性の高さに着目して生まれた作品です。
そうしたごく身近な日常の延長線上でのミステリーの質感を重視し、若者世代と親和性の高い話題を取り入れたことで、日ごろはミステリーや読書自体に関心の薄い方にも届くきっかけを作れたと思います。
今の時代にしか書けない新しい題材を扱うことで、ミステリーの新領域を開拓できる。さらに、作中で書いたトリックが、長いミステリーの歴史の中で蓄積されてきた既出トリックと少し似ていたとしても、焼き直しではなく「オマージュ」として見てもらえる利点もあります(笑)

――18年に『名もなき星の哀歌』で新潮ミステリー大賞を受賞しデビューしました。ミステリーというジャンルで作家を志した理由は?
ミステリーの醍醐味は作者と読者の知恵比べ。作者はどう読者を驚かせようか趣向を凝らし、読者は予想を超える展開に出会ったときに最大の喜びを感じる。その感覚が好きです。なので、自分が誰かを楽しませる作品を書きたいと思ったとき、何より僕自身が一番ワクワクできるのはミステリーだと思いました。
また、東大在学中に同じ法学部の同級生だった辻堂ゆめ氏が「このミステリーがすごい!大賞」を受賞して作家デビューしたことも、新人賞に応募しようと思った大きなきっかけです。それまでも作家になりたいという夢は漠然と抱いてはいましたが、同級生のデビューに触発され、そこで一気に現実の目標に変わった。
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