アニメ化もされた『SPY×FAMILY』(遠藤達哉)や『チェンソーマン』(藤本タツキ)など、ヒット漫画を次々と生み出している編集者が、林士平(りん・しへい)氏だ。漫画誌アプリ「少年ジャンプ+」にて、毎週100万閲覧を超える『ダンダダン』(龍幸伸)や、公開初日で250万閲覧を記録した読み切り作品『ルックバック』(藤本タツキ)も担当。軒並み「少年ジャンプ+」を代表する人気作だが、なぜヒットを連発できるのか、秘訣を聞いた。

※日経トレンディ2023年1月号より。詳しくは本誌参照

集英社「少年ジャンプ+」編集部の林士平氏
集英社「少年ジャンプ+」編集部の林士平氏
集英社 「少年ジャンプ+」編集部 林士平 氏
1982年生まれ。2006年、集英社入社。月刊少年漫画誌「ジャンプSQ.」の創刊に携わり、18年に「少年ジャンプ+」編集部に異動。『青の祓魔師』『チェンソーマン』『SPY×FAMILY』などヒット作を多数手掛ける

 これまで担当してきた多くの作品は本当にたくさんの方々に読んでいただいていますが、やはりお客様が集まる「少年ジャンプ+」という場の影響は大きいですね。1話ごとに50万、60万閲覧は平然とあって、中には1話で100万、200万人を呼べる作品もある。要は、常に“バズる”媒体になりつつあるんです。

 ジャンプ編集部にはもともと「新しいものを優遇する」というDNAがあり、読者を飽きさせない。ビッグタイトル目的で見に来てくれた人が、「新人の作品にも面白いものがあるじゃないか」と、読者さんも一緒に若い作家を育ててくれる土壌ができていると思います。さらに、集英社にはビッグタイトルを多く手掛けてきた経験値がある。新人さんが売れ始めたときに、宣伝・販売施策、メディア展開など様々な後押しができます。

 ただ、2014年頃のアプリ立ち上げ当初は、編集部に人が少ない、タイトルも集まらないという状況だったそうです。16年頃から『ファイアパンチ』(藤本タツキ)だったり、何本かスマッシュヒット以上のものが出始めて、ユーザー数が増えて風向きが変わった。社内でも新しいコンテンツが生まれる場所だと認識されて、作家陣も連載を目指してくれる方がすごく増えました。

 作品を掲載する際の自由度の高さも、「少年ジャンプ+」の特徴です。例えば、『ルックバック』は全編143ページの読み切りで、ボリューム的に紙の漫画雑誌だったら載せにくい。前編後編に分けるなども考えましたが、藤本先生と相談して、いっぺんに読んでもらった方が読者の方にも響くだろうと公開の形式を決めました。

 また、連載の開始時期も自由に決められます。掲載枠の関係もあり、紙の雑誌だと連載決定後3~4カ月で掲載が始まるのですが、『SPY×FAMILY』は遠藤先生がクオリティーに徹底的にこだわりたいとのことだったので、半年ほど準備期間をかけ、10話分のネームをためてから連載を始められました。

ヒット作はどう生まれるのか

 新しく才能を発掘するのに、どこを見るかは本当に決まっていません。漫画って楽しむポイントが色々あるじゃないですか。単純にキャラクターが描けていれば、それはそれで才能がありそうだし、セリフだけ面白いという人もいて、最初から完成されている人はいないんです。僕は売れている先生の初期短編集を見るのがすごく好きなのですが、その1本を見て、「この才能を見抜けるだろうか」と自問自答したりしています。中には「この1本だけでは俺、名刺渡さないかも」と感じることもあるので、ちゃんと読まないといけないなといつも思っていますね。

 具体的な作品について語ると、『SPY×FAMILY』は、「スパイと殺し屋と超能力者の娘」という設定しか最初は固まっておらず、1話のネームをつくる前に2人で超能力をリスト化して、遠藤先生のアイデアでアーニャの超能力を「心が読める」に決めました。スパイにとって弱点でもあるし、結果的には一番の肝だったのかなと思います。

 もちろん、完成度の非常に高い作品をずっと続けるという偉業も欠かせません。プロットやセリフにもすごく神経が行き届いていて、何より遠藤先生の描く絵は本当に素晴らしい。どのコマを切り取ってもグッズにできるし、読者の心にも焼き付いているに違いないと感じています。

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