
建設用3Dプリンターを使って建設業界のDX(デジタルトランスフォーメーション)化を目指すPolyuse(ポリウス、東京・港)。国土交通省がその技術力を評価し、公共工事に活用し始めたことで、工事にかかる日数や人手を大幅に削減する可能性を秘める。「IoTコンクリート」といった次世代のアイデア実現に向け、一歩ずつ着実に進み始めた。
およそ3メートル四方の格子で囲まれた空間の中を機械が動き、建築物のパーツが立体的に“印刷”されていく。本体に付いたノズルが計算通りに縦横無尽に動き、先端から出るコンクリートを何層にも塗り重ねて形づくっていく。そんな建設用の3Dプリンターを自社で製造するスタートアップがポリウスだ。
ポリウスのビジネスモデルは、3Dプリンターのハードウエアだけでなく、動かすためのソフトウエアの開発から、コンクリート素材の開発まで、オールインワンのパッケージとして提供するのが特徴だ。職人の技術や知識を機械に落とし込み、どんな人でも効率的に構造物がつくれるよう、建設事業のDX化を目指している。
建設業界には大きな課題が2つある。1つは、慢性的な人材不足。重い荷物を運ぶなど、他の仕事に比べて重労働になりやすく、若い世代の担い手不足が深刻化している。国土交通省が2016年に公開したデータでは、建設業就業者492万人のうち、約3割が55歳以上で、29歳以下は約1割だった。ベテラン技術者が続々と引退を迎えることから、若い就業者の確保が喫緊の課題だった。
2つ目は、道路や水道など公共土木施設などのインフラの老朽化だ。1955~73年の高度経済成長期にインフラ整備が集中したことで、今になって予算や人手が足りなくなるほど、施設の老朽化が相次いでいる。「政府は外国人労働者を増やして労働力を補おうとするが、それは課題を先延ばしにしているだけ。根本的な解決には、若手の入職者を増やすか、1人当たりの生産性を上げるかしかない」と、ポリウス代表取締役の大岡航氏は語る。
ポリウスが狙うのは、建設DXによって生産性を上げ、建設業界のイメージアップを図ることだ。3Dプリンターを導入し、工期が短縮されれば職人の負担軽減につながる。環境が変われば若い就業者が増加し、好循環が生まれると考えた。そこで、ハード・ソフト・素材という3つの要素をパッケージにし、誰でも簡単に使用できる3Dプリンターの開発をスタートした。
国の信頼を勝ち取り、公共工事の活用が急増
2019年6月に会社設立後、2年間は基礎研究を積み重ねた。21年6月、前田建設工業(東京・千代田)と協力し、同社の敷地内に3Dプリンターで作成した集水ますの設置に成功したことで、潮目が変わった。集水ますとは、構造物の地下に設置する、雨水や泥を一時的にためる設備。1つの建物に何個も使用されるため、最も汎用的な設備として選定された。建設現場に3Dプリンターを持ち込み、その場で造形。実証実験は成功に終わった。
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