未来の市場をつくる100社【2023年版】 第18回

医療サービスを手掛けるMICIN(以下マイシン、東京・千代田)は、オンライン診療を主軸に、健康や医療データを活用した商品・サービスを幅広く展開する。20年に保険会社を立ち上げると、乳がん、子宮がん、卵巣がんの手術後、半年で加入できる日本初の「女性特有がん経験者専用がん保険」を販売。22年には、がんの種類に関係なく診断確定から最短半年で申し込みができる「がん経験者向け入院保障保険」を発売した。元医師がテクノロジーを駆使し医療領域の常識を変えていく。

MICIN(東京・千代田)の原聖吾代表
マイシンの原聖吾代表

 人間誰しも寿命を迎える。突然、大きな病に向き合わなければならなくなったとき、何を感じるだろうか。

 マイシンの原聖吾CEOは、かつて医師として働く中、病気や死に直面し「こんなはずではなかった」と肩を落とす患者に多く出会ってきた。同時に、患者の取り違え問題など医療現場の問題点が世間をにぎわせている時期が重なり「患者に真摯に向き合う医師が、寝る間を惜しみながら働いている中、こうした問題とのギャップを仕組みで何とか解決できないか」(原氏)と感じていた。病院を退職したのち医療政策のシンクタンクやコンサルタント業務に従事したが、思いは変わらなかった。2015年に起業。世に新たな価値を創造しようと掲げたのは「すべての人が、納得して生きて、最期を迎えられる世界を。」というビジョンだ。

社名:MICIN(マイシン、東京・千代田)
設立:2015年11月
製品/サービス:オンライン診療ほかデジタルを用いて患者生活を支援するシステム。また、医療×テクノロジーで新しい保険を販売
市場:医療機関の業務プロセスを進化させる医療DXのほか、デジタルヘルスを活用した患者支援、保険事業を展開
カテゴリー『健康・ウェルビーイング』

 マイシンでは医療データを切り口に4つの事業を手掛けている。現在、収益の多くを占めるのがオンライン医療事業だ。体の具合が悪いときには、誰もが「場所や時間を問わず医療機関に相談したい」という根源的なニーズがある。これに応えるべく16年に立ち上げた。当初は「胸の音を聞けない、腹部の触診ができない、血液検査もできない、と大半の医師から『対面でなければ診療は無理』と反対され、一向に広まらなかった」(原氏)。だが、新型コロナウイルスの感染拡大をきっかけに風向きが変わった。20年4月に「初診患者からのオンライン診療が(臨時措置として)解禁」されると、患者のニーズはもとより医療者側の受け入れも加速。20~60代の患者が積極的に活用し、事業は右肩上がりに伸びている。利用者はコロナ禍で10倍以上に増えた。

 原氏がオンライン診療を推進する理由は、患者からのニーズがあるからだけではない。「これまでは医師が長く働いて現場を支える構造だったが、医療現場の働き方改革が進んでいる。こうした背景からオンライン診療のニーズはより高まっていく」(原氏)と考えるからだ。

 だが、対面診療に比べオンライン診療における診療報酬の点数は低い。例えば高血圧の場合、クリニックでの診療に比べ、オンライン診療で得られる診療報酬は8割ほどだ。社内では医師や弁護士資格を持つ社員がチームを結成し、こうしたオンライン診療に関する制度への政策提言を続けている。

 また、22年4月にはスマートフォンを胸に当てて呼吸音を取得する技術を開発し、医療機器薬事承認を申請した。認可されれば、スマホを聴診器代わりに患者が呼吸音データを送れるようになり、オンライン診療で不可能といわれていた課題の1つが解決できる。

 オンライン診療は20~60代が活用する一方で、70代以上の高齢者にとってはハードルが非常に高い。これについては現在、ケーブルテレビ最大手のJCOM(東京・千代田)と業務提携しており、テレビを使った診療の導入を促進していくという。

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