
水産資源をどう守っていくか――。漁業のサステナビリティー(持続可能性)をめぐる取り組みとして、陸上養殖のニーズは世界的に高まっている。しかし、コストや技術の参入障壁の高さなどから陸上養殖は思うように進まず、産業化への道のりはまだ遠い。そんな中、小型のコンテナで陸上養殖を行うユニークな発想で課題解決に挑むスタートアップが、ARK(アーク、東京・渋谷)だ。陸上に海をつくることで、「海を休ませる」ことを目指している。
小型・分散化生産で目指す「養殖の民主化」
ARKが手掛けるのは、駐車場1台分ほどのスペースで設置可能なコンテナ型の陸上養殖ユニットだ。どこででも誰でもサステナブルな養殖ができることを売りとしていて、すでに全国で7基が稼働。現在、バナメイエビなどの陸上養殖が試みられており、2023年には量産化を目指している。
実証実験の舞台の一つが、福島県のJR浪江駅だ。駅の構内にARKの陸上養殖ユニットを設置しており、22年3月末からバナメイエビの稚魚を入れて養殖を行っている。鉄道施設内で飼育したバナメイエビの出荷方法や、システムの安定性を実証するという新しい試みで、今後、列車輸送などを活用して駅ナカ店舗での販売なども検討するという。鮮度の高いエビを、温暖化ガスをできるだけ排出しない形で消費地に速く届けるもくろみだ。
また、22年9月には、エビ専門店の「海老乃家」を運営するFGROW(エフグロウ、高松市)の本社敷地内に設置したコンテナでも、バナメイエビの陸上養殖を開始した。食の持続可能なサプライチェーンを実現することが目標だ。
これらの陸上養殖コンテナでは、約2~3カ月のスパンで最大数千尾のバナメイエビを生産している。活魚特有の歯ごたえがあり、おいしく臭みもないという。また、栄養分についても他の養殖エビと比べて同等で、病気などのリスクが少なく、安全・安心である点を売りとしている。
駐車場1台のスペースが生み出す可能性
ARKのコンテナの一番の特徴はコンパクトな点だ。必要なスペースは9.99平方メートルで、駐車場1台分に当たる。日本の法律では10平方メートル以上だと建物扱いとなるため、ぎりぎりの大きさに抑えることで手軽に導入できるとしている。コンテナ内部にはIoTを活用した通信カメラなどを搭載し、スマートフォンによる遠隔操作で給餌が可能で、水槽のモニタリングもできるようになっている。これにより、省人化や無人化を実現している。
このコンテンツ・機能は有料会員限定です。
- ①2000以上の先進事例を探せるデータベース
- ②未来の出来事を把握し消費を予測「未来消費カレンダー」
- ③日経トレンディ、日経デザイン最新号もデジタルで読める
- ④スキルアップに役立つ最新動画セミナー