東京大学大学院工学系研究科教授の松尾豊氏は2020年から、高等専門学校生による、ディープラーニングとハードウエアを組み合わせた事業創出コンテスト「全国高等専門学校ディープラーニングコンテスト(高専DCON:ディーコン)」の実行委員長を務めている。第1回大会で優勝したチームは、AIスタートアップTAKAO AI(東京都八王子市)を立ち上げ、日本郵政との協業を進めている。視覚障害者向けのソーシャルイノベーションを推進するためだ。前回に引き続き日本郵政サステナビリティ推進室長の關祥之氏とTAKAO AI代表取締役 板橋竜太氏、松尾教授がイノベーション創出をテーマに議論する。モデレーターはPwCコンサルティング Strategy&パートナーの唐木明子氏。
▼前編はこちら 日本郵政がソーシャルイノベーション加速 視覚障害者向けにAI活用唐木明子氏(以下、唐木) ※前編で 大企業とスタートアップが連携することの意味合いを考えてきました。松尾教授は、日本のAIスタートアップを多く見てきていると思いますが、その現場をどのように感じていますか。
松尾豊氏(以下、松尾) そもそも、日本ではDX(デジタルトランスフォーメーション)が非常に遅れています。テクノロジーの供給と需要のバランスで考えると、明らかに供給側が圧倒的に不足している状況です。AIスタートアップは、少しずつ増えているとはいえ、全然足りていません。もっと格段に多くのスタートアップが生まれ、大企業との連携もさらに増やす必要があると思います。
ただ、テクノロジーで差別化するのではなく、個別の課題に入り込んでそのソリューションで差別化することが大切です。テクノロジーがあるというだけでは、お客さまにとっての価値とはならないからです。そのテクノロジーによってどのような課題を解決するのか、課題に深く入ることが重要なのです。テクノロジーに寄りがちなスタートアップが多い中で、今回の日本郵政とTAKAO AIの協業は、具体的な社会課題を解決しようとする理想的な事例だと思います。
唐木 課題解決型のスタートアップがもっともっと必要ということですね。テクノロジーが進むことで、解決できる課題もいまだかつてないスピードで増えます。解決できる課題は勝手に生まれる一方で、解決策の提示は誰かが行わなくてはなりません。その役割をスタートアップに期待したいところです。その役割の担い手として、松尾先生はなぜ高専生に注目しているのでしょうか?
松尾 シリコンバレーなどでも、テクノロジーを学ぶ若年化が進んでいます。高専生は15歳から多様なテクノロジーを当たり前のように学んでいるわけですから、まさにスタートアップ向きだと思います。極めて大きなポテンシャルがあるのに、世の中の評価があまり高くないのが非常に残念です。私は、正当な評価としてすごいと言うと、高専の応援団長のように言われるのが大変不思議に感じます。
高専ディーコンに対しての意識は年々高まっていますし、TAKAO AIが成功事例となって、さらに起業の連鎖が起きてほしいと期待しています。
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