続・文系マーケターのための統計入門 第6回

マーケターなら知っておきたい統計的手法の基本を解説する本特集。今回から4回にわたって「重回帰分析」について学ぶ。回帰式に入力するデータ(変数)が1つだけの単回帰分析に対し、重回帰分析では複数の変数を扱う。それだけ単回帰分析よりも精度の高い予測が可能だ。さらに予測結果に大きな影響を与えている原因も数値で比較できる。この分析手法をマーケターはどう使いこなせばいいのか、法政大学経営学部の西川英彦教授に分かりやすく解説してもらった。

複数の変数を扱う「重回帰分析」で新開発のドリンクの売上本数を予測する(画像提供:LuckyStep/Shutterstock.com)
複数の変数を扱う「重回帰分析」で新開発のドリンクの売上本数を予測する(画像提供:LuckyStep/Shutterstock.com)

予測結果に対する各原因の影響の大きさ

――前回のテーマは、1つの独立変数(説明変数)から将来の予測である従属変数(目的変数)を導き出す「単回帰分析」でした。今回からは、複数の独立変数から従属変数を導き出す「重回帰分析」を学びます。「因果関係の結果」とも言える従属変数を予測する上で、その“原因”となる独立変数の数が増えます。となればマーケターにとって判断材料が増えるわけですから、予測の精度も上がりそうですね。

西川英彦教授(以下、西川) 確かに独立変数を正しく選べば、重回帰分析は単回帰分析よりも予測の精度を上げることができます。ただ、重回帰分析が単回帰分析よりも優れているのは、予測精度の高さだけではありません。

――予測精度だけじゃないのですか?

西川 それを思い出してもらうためにも、これから行う重回帰分析の解説の流れを確認しておきましょう。単回帰分析の際にも言いましたが、この「解説の流れ」と重回帰分析をマスターした後の実際の「手順」とは順番が異なりますから、注意してくださいね。

【重回帰分析の解説の流れ】

(1)複数の原因と結果の仮説を立てる
(2)回帰式「y=a1x1+a2x2……+b」を導き出す
(3)母集団でも、各原因を使うのが適切かを検定する
(4)回帰式の精度を確かめる
(5)かぶりの問題を確認する
(6)どの原因が予測結果に利いているのかを調べる
(7)別の原因の影響をコントロールする

――単回帰分析にはなかった、5番目の「かぶりの問題を確認する」や6番目の「どの原因が予測結果に利いているのかを調べる」、7番目の「別の原因の影響をコントロールする」というプロセスがありますね。

西川 はい。

――特に6番目に関しては、確かどの独立変数が予測結果にどれくらい影響を与えているのか、順番だけでなく、具体的な数値でも確かめられるのでしたね。

西川 その通り。

――それが可能なら結果に対する影響の大きさで優先順位を付け、それに応じて人や資金、時間といった限られたリソースを最適な割合で投入できます。重回帰分析はマーケティングの現場はもちろん、グループや部門の意思決定、企業全体の経営判断にも役立ちそうですから、かなり期待してしまいます。

西川 では、先ほどの重回帰分析の流れに沿って解説していきましょう。

実測値と予測値の「残差の平方和」を最小に

西川 まずは「(1)複数の原因と結果の仮説を立てる」です。単回帰分析に引き続き、新開発のドリンクの売上本数が何本になるか予測する事例で見ていきましょう。

――単回帰分析では、あるドリンクメーカーの開発者がまず「ドリンクの味の良さは売上本数に影響を与える」という仮説を立てました。

西川 今回、開発者は「売上本数と因果関係を持っているのは、果たして『味』だけなのか」と考えました。他にも何かあるのではないかと、疑問を抱いたわけです。

――自分の場合を考えても「味」だけで決めることはないなぁ。テレビのCMが気に入っただけで、つい買っちゃうこともあるし。

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