プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)出身の30代の2人が、P&G流マーケティング思考によってつくる新・東京銘菓。その開発模様をリアルタイムに追いかける当連載第4回では、商品開発のめどがたったものの、商品化を断念した理由とそこから得た考察について紹介する。
連載第3回では、その土地に根差した「銘菓」をつくる上で大事な要素として、“その土地らしさ”を想起できるかがあると解説した。そしてその要素には3つあり、私たちはその中で、2つ目の要素である、「その土地の『歴史』に関連している」を商品化に取り入れると紹介した。残り2つの要素については、ぜひ第3回を読んでみてほしい。
徳川三大果を使用した「東京栗ぃむもなか」が誕生
第3回で紹介した通り、“東京らしさ”を表現する要素として、私たちが取り入れることにしたのは、「徳川(15代将軍)」だ。徳川というからには、徳川と関連する何かが入っていないと商品として成立しない。デスクリサーチ(※編注:既存の統計や調査データを収集・分析するリサーチ方法)を中心に色々と調査をした結果、「徳川三大果」にたどり着いた。
徳川三大果とは、徳川家に献上されていた3つの果物で、「小布施栗(長野県)」「紀州蜜柑」「甲州葡萄」を指している。この3つの果物を使い商品開発を行えば、東京らしい商品がつくれるのではないかと考えた。
“幻の献上品「徳川三大果」を使った新・東京土産”。字面を見てほしい。「お、これは東京土産っぽい!」と感じられないだろうか?
そうして誕生したのが、「栗」と「クリーム」をかけて「栗ぃむ」と名付けた「東京栗ぃむもなか」である。小布施栗を中心とした2層のマロンクリームを使用し、中心に甲州葡萄のソースを入れ上下をもなかで挟んだ。好みに合わせて、付け合わせの紀州蜜柑クリームをつけて食べるという商品だ。
この商品、手前味噌ながら食べてみると非常においしい。連載第1回でも紹介したが、当社には、人気ロールケーキ「堂島ロール」を開発・販売するモンシェール(大阪府箕面市)で修業を積んだパティシエが在籍している。味の調整はこのパティシエが行った。さすがパティシエが手掛けた商品だけある。
見た目ではあまりイメージできないと思うが、酸味のあるミカンとブドウのクリームが、栗独特のねっとりした食感やえぐみを中和している。こうして洋菓子と和菓子の2つの要素を兼ね備えた、従来の栗菓子とは異なる風味を持つ商品が完成した。社内外複数の人間にも食べてもらったが、皆が口をそろえて「これはおいしい!」と答えた。
味は完全に合格点だ。あとはこの商品が市場に出たときに、「本当に買ってくれそうか」という点がクリアできればOK。消費者インタビューを通して、実際にこの商品の購入意向が十分か調査を行った。
消費者調査で味わった“圧倒的敗北”。お菓子づくりの鉄則とは?
結論から話そう。消費者インタビューの結果は、“圧倒的敗北”だった。それも予想をはるかに上回るレベルの敗北だった。ほとんどの消費者が「買わない」と回答、もしくは言葉では「興味がある」と回答しつつも、実際にはお金を出してまでは買わないだろうなと私が判断した消費者であった。
さてどうしたものか。本当に迷った。P&Gのときのように上司もいなければ、商品リリースに関して明確な決定基準があるわけでもない。もちろん、これでいくんだと自分たちがGOサインを出せば商品を販売することはできる。正直、多くの時間を費やしたのだから、「出してしまえ!」という気持ちもあった。しかし最終的に出した結論は、「引き返す」ことだった。やはり自分たちが信じてきたマーケティングプロセスに嘘はつきたくないし、発売して売れなかったとき、お客さんに満足してもらえなかったとき、そのしっぺ返しのほうが100倍以上手痛いと考えたからだ。
「引き返す」といっても、何の方向性もなく引き返すことなどできない。一体何がだめだったのか。消費者調査を通して私たちが得たKey Take Away(学び、感じ取ったこと)は以下の3点だ。
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