プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)出身の30代の2人が、「『東京ばな奈』に匹敵する、東京銘菓の新定番をつくる」というコンセプトを掲げ、商品開発をスタートした。商品づくりから販売戦略まで、P&G在籍時に培ったマーケティングの知識やフレームワークをフルに活用する。P&G流の“つくり方”と“売り方”により、新・東京銘菓は誕生するだろうか? 本人たちがその舞台裏を余すことなく紹介するリアルタイム連載をスタートする。

新・東京銘菓をつくるプロジェクト。P&G流のマーケティング思考により、「東京ばな奈」に匹敵する東京発の新名物は誕生するか?(画像/Shutterstock)
新・東京銘菓をつくるプロジェクト。P&G流のマーケティング思考により、「東京ばな奈」に匹敵する東京発の新名物は誕生するか?(画像/Shutterstock)

 「東京ばな奈『見ぃつけたっ』」に代表される、グレープストーン(東京・中央)の東京ばな奈シリーズ。1991年に発売されて以来、30年以上愛され続ける東京銘菓の代表格だ。一度は購入したことがある、もしくはお土産としてもらったことがあるという人が大半ではないだろうか? そんな超人気菓子に対して、「東京ばな奈に匹敵する、全く新しい東京銘菓をつくる!」と意気込み、新商品開発に乗り出す2人が現れた。

 彼らはともにP&G出身の30代だ。現在、企業のマーケティング支援を手掛けるMD(東京・港)という会社を経営している。代表を務める石井賢介氏は、P&G在籍時に、アジア本社と日本にて「ファブリーズ」および「ジョイ」のブランドマネジメントに従事。ファブリーズを担当していた頃は、99年発売以来のブランドレコードとなる売り上げを達成したという。なお同氏が退職後、P&Gで学んださまざまな知見を基に投稿プラットフォーム「note」に書いた「【1時間で分かる】P&G流マーケティングの教科書」は、「ビジネス」カテゴリーにおいて、2020年で最も読まれたnoteとして認定された。

▼関連リンク(クリックで別サイトへ) 【1時間で分かる】P&G流マーケティングの教科書

 もう1人、一緒に同プロジェクトを担当するMDの執行役員兼ブランドリーダーの森川智行氏は、P&G在籍時代、デジタル・ECマネージャーとして一貫してオンライン領域を担当し、15以上のブランドを管理。在籍期間のデジタル・EC売り上げを2.5倍にしたという。

 MDは20年の創業以来、2年間で200を超える大小さまざまなクライアントのマーケティングを支援してきた。そんな中、創業3期目にあたる22年7月から、「自社のブランドをつくる」という方針の下、新・東京銘菓づくりや、ビジネスパーソンのための抹茶開発など、複数のオリジナルブランドの立ち上げを始めた。

 なぜ企業支援をメイン事業にしてきた2人が、自らブランドを立ち上げることにしたのか? それは、リスクを取り自社でブランドを立ち上げることで、マーケティング支援だけでは得られない“生の知見”を習得でき、結果的にそれを支援先企業にも還元できるからだ。当連載では、石井氏、森川氏がP&G在籍時に培った知見やフレームワークを、どのように「新・東京銘菓づくり」に活用していくのかを、具体的な売り上げや改善策など生々しい数値を公開しながら紹介してもらう。

 なお当連載は、石井氏と森川氏の2人が進める商品開発プロジェクトをリアルタイムに追いかけていくものである。そのためゴールである「新・東京銘菓づくり」にたどり着く前に方針転換を迫られたり、中止に至ったりする可能性は十分ある。しかしそうした予期せぬ事態も含めて、リアルタイムに商品開発やマーケティング活動の模様を紹介していくことがこの連載の目的だ。

 まずは、石井氏が「新・東京銘菓づくり」に勝機を見いだした理由や意気込みを語る。


なぜ、“挑戦的”商品開発の裏側を見せるのか?

石井賢介氏:さて本題に入る前に1つ、読者の皆様に極めてシンプルな質問をしたい。

 「東京銘菓の定番品として認知されている既存商品に満足しているか? また、お土産としてそれらをもらってうれしいか?」

 もしこの問いに対する回答がYESであるならば、もしかしたら私がこれから書こうとしている内容には納得できないかもしれない。しかしNOであるならば、本連載を読むことで2つのメリットが得られるだろう。

 1つ目は、“東京らしい”「全く新しい東京銘菓」に出合えるかもしれないこと。もうこれで義父母の家に帰ったり、取引先に持っていく際の東京土産に悩んだりする必要はなくなるはずだ。2つ目は、「全く新しい東京銘菓」を、P&G出身の2人のマーケターがどのようにつくろうとしているのかというマーケティング思考のプロセスをのぞき見できることだ。

 1つ補足をすると、私たちは既存の東京銘菓を軽視しているわけではない。むしろマーケターとして、長期にわたって愛され続ける商品が存在することに対して嫉妬を覚えるほどだ。東京銘菓の定番品は、どれも偉大なお菓子であるからこそ挑む価値がある。だからこそ私たちは、なかでも東京銘菓の代表格である「東京ばな奈に匹敵する新・東京銘菓をつくる」と無謀とも思える挑戦を打ち立てたのである。

MDでは、現在開発中の「新・東京銘菓」を東京駅などの主要駅に置かれることをめざす(画像/Shutterstock)
MDでは、現在開発中の「新・東京銘菓」を東京駅などの主要駅に置かれることをめざす(画像/Shutterstock)

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