ECの普及で物流量が増加する一方、ドライバーの高齢化など人手不足に陥っている物流業界。消費の舞台裏を支える重要産業を救うのは誰か。日本政策投資銀行(DBJ)グループ会社のベンチャーキャピタル、DBJキャピタル(東京・千代田)のメンバーが、4つの切り口で有望スタートアップを解説する。

(写真/Shutterstock)
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 我々は日常生活の中で強く意識することはないが、現在の生活は高度な物流によって支えられており、物流なくして人々の生活は成り立たない。その物流業界は「2024年問題」といわれるように、働き方改革関連法で24年4月1日以降はドライバーの年間時間外労働時間の上限が960時間に制限されることで、圧倒的な人手不足に陥る。こうした危機に対して、スタートアップを中心に新たな技術開発で課題を解決しようという取り組みが進められている。本稿では、それら物流業界を巡る最新の動向について紹介したい。

物流業界が直面する深刻な課題

 まず、物流業界の現状を一言で説明すると、需給ギャップが拡大すること、すなわち需要が増加して供給が減少するということである。営業用貨物自動車について見ると、需要は緩やかに増加する一方、供給(輸送能力)は減少することが見込まれている。

(出所/「ロジスティクスコンセプト2030」(日本ロジスティクスシステム協会、P15)を参考にDBJキャピタル作成)
(出所/「ロジスティクスコンセプト2030」(日本ロジスティクスシステム協会、P15)を参考にDBJキャピタル作成)

 需要側については、国土交通省資料などによるとEC化の進展に伴ってトラックの宅配便の取扱個数は増加傾向にある。さらに、米国や中国と比較して日本のEC化率はいまだ低い水準にあり、今後もさらなるEC化の進展が見込まれる。宅配便の取扱個数の増加に伴う貨物の小口化、輸送の多頻度化が進み、積載率は低下しており、貨物輸送件数も増加傾向で推移している。

 一方で、供給側について、輸送能力は今後大きな減少が見込まれている。日本全体で少子高齢化に伴い生産年齢人口が減少傾向にある中、トラックドライバーの平均年齢は全産業に比べて高齢化が進んでおり、対策を講じなければ今後担い手の減少が急速に進んでいくとの見立てもある。物流施設についても同様で、大型物流施設の集積により限られた地域の労働者を複数の物流施設が競って確保する状況となっており、庫内作業員の確保が難しいエリアも出始めている。それらに加えて、足元ではいわゆる2024年問題といった新たな問題も生じている。

 改めて説明すると、2024年問題とは自動車運転業務を含む一部業務について、時間外労働の上限規定の適用猶予期間が24年3月に終了することである。厚生労働省の資料によると、現在でもトラックドライバーの年間労働時間は全産業平均と比較すると2割程度長く、長時間労働を余儀なくされている。それに加えて上限規制が新たに適用されることで大きな影響があると予測されている。

 すでに、足元でも長距離輸送から中継拠点でのスイッチ輸送(中継輸送)への切り替えが行われている。だが、今後、人員確保などが難しくなれば、一層のコスト増やサービス低下への影響が見込まれる他、23年4月から月60時間を超える部分の時間外労働による割増賃金率の上昇が中小企業にも適用されることも経営逼迫の要因となることが懸念されている。

 これまで物流業界の課題を見てきたが、これらは人口減少・少子高齢化・ドライバー不足といった人手不足と小口多頻度・再配達・低積載率といった非効率の問題の大きく2つに帰着できる。具体的な課題は地域によってそれぞれ異なるが、都市部・地方部といった大きなくくりで考えると、都市部ではEC利用者が多いため、「荷量が多く配送負担が重い」「配送先数や時間指定荷物の存在により配送計画の複雑性が高い」「再配達や交通状況の変化が激しく効率的な配送が難しい」といった課題がある。

 一方、地方部では、「物流の担い手不足」「買い物難民の発生」「人口分布がばらついており輸送距離も長いため効率が悪い」「道路が整備されておらず迂回や人足による配送を伴う場合がある」といった課題がある。

 これらの課題に対し、様々な事業者がいろんな角度のアプローチで課題解決に向けた取り組みを行っており、そのいくつかを紹介していきたい。

物流を救う「4つの切り口」とは?

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