日本有数のオフィス街である東京・丸の内エリア(丸の内、大手町、有楽町)。この街を舞台に今、三菱地所が進めているのが、「丸の内ファン」の声を傾聴し、街づくりに生かす、ファンベースの取り組みだ。ファンベースカンパニー(東京・渋谷)が提供する「ファンベース診断」を用いて実態を把握、そこから導き出した「丸の内ファン」の姿とは?

東京・丸の内の街並み。このエリアで就業する人は約28万人に上る
東京・丸の内の街並み。このエリアで就業する人は約28万人に上る

 ファンベースカンパニーは三菱地所の依頼を受け、同社初となる「オフィス街」を対象とした調査を2021年に実施した。舞台は東京駅の西側一帯を指す丸の内エリア。「丸の内の大家」といわれる三菱地所が長年にわたって開発をリードしてきた街だ。

 なぜ三菱地所という企業名ではなく、街自体についてのファンベース調査を行ったのか。三菱地所エリアマネジメント企画部 兼 DX推進部の川村優乃氏は、「新型コロナウイルス禍をきっかけに、丸の内エリアのファンの実態を改めて把握しておきたいと考えた」と話す。

三菱地所の川村優乃氏
三菱地所の川村優乃氏

 以前から三菱地所は「丸の内エリアのファン」とコミュニケーションを取り続けていた。同社によると、丸の内エリア(丸の内、大手町、有楽町)で就業する人は約28万人。そのうち、約17万人が三菱地所関連のビルに勤務している(22年12月末時点)。

 その約17万人に向け、三菱地所は18年11月から会員制サイト「update! MARUNOUCHI for workers」を始めた。飲食店、小売店などを中心に、エリア内の350以上の店舗に協力を仰ぎ、会員向けにランチタイムのドリンクサービスやアパレルショップの割引クーポンなどを提供している。さらに、エリア内でのイベント開催やメールマガジンなどの情報発信も行い、徐々に会員数を伸ばしてきた。現在は対象者の約5人に1人、2万7000人以上が会員となっている。

update! MARUNOUCHI for workersのサイト
update! MARUNOUCHI for workersのサイト

 update! MARUNOUCHI for workersが好調の一方で、20年春の緊急事態宣言によって、丸の内エリアは「週5日通う街」から、「必要なときにだけ通う街」に大きく変化した。今では以前のにぎわいを取り戻しつつあるが、当時、川村氏は相当な危機感を覚えたという。「街づくりの会社として、出社したくなるような魅力的なエリアにしたい。スポーツチームが自分たちの強み、弱みを把握して戦略を立てるように、自分たちも動かなければ」(川村氏)

 これまでも住宅関連企業を中心に、「好きな街」や「住みたい街」を問う調査は存在していた。だが、オフィス街はあまり居住者がいないため、既存の調査では実態が見えてこない。そもそも「自分たちの街=住んでいる街」という感覚が強いはずで、基本的に仕事で訪れるオフィス街にどれほどの思い入れがあるのかは、未知数だった。

 実施したファンベース診断では、ファンから見た価値を「機能価値」「情緒価値」「未来価値」の3つに分けている。丸の内エリアについて川村氏は、「調査前の時点では、『便利』『清潔』『おいしい飲食店がある』など、機能価値への評価が高く、情緒価値や未来価値はあまり高くないのではないかと考えていた」と言う。

 だが、結果はいい意味で予想を大きく裏切った。

勤務歴の長さとファン度の高さに相関関係あり?

 調査は21年5月に実施。update! MARUNOUCHI for workersの会員向けにアンケート形式で行い、473件の有効回答を集めた。回答者は30~50代が中心で、78%が女性だった。

ファンベースカンパニー社長の津田匡保氏
ファンベースカンパニー社長の津田匡保氏

 ファンベースカンパニー社長の津田匡保氏が「驚いた」というのは、ファンの感情を測るファンステージの高さだ。まだ丸の内エリアのファンになっていない「関与なし」から、ファンになりたての「発見」、継続意向のある「定着」、積極的に関わりたいという「参加」、そのブランド・企業などとともに未来をつくっていきたいという「共創」までの5ステージのうち、「定着」が67.2%と最多で「参加」が8.9%、「共創」が15.2%という結果だった。

 つまり、継続意向のある「定着」以上の回答者が全体の91.3%と、非常に好意的な結果だったのだ。「会員組織内でのアンケートとはいえ、特に、一番上のステージである『共創』の割合がこれほど高い調査結果は珍しい」(津田氏)

丸の内エリアに対するファンステージの調査結果。「参加」と「共創」ステージを合わせると、約25%に。回答者の4分の1が丸の内エリアに対して高い熱量を持っていることが判明した
丸の内エリアに対するファンステージの調査結果。「参加」と「共創」ステージを合わせると、約25%に。回答者の4分の1が丸の内エリアに対して高い熱量を持っていることが判明した

 また、上記のファンステージと「現在の好意」をかけ合わせて測る4段階の「ファン度」(未ファン、ライトファン、ファン、コアファン)でも、コアファンの割合が8.9%と高いことが分かった(下図)。36.2%あるファンの割合と合わせると、約半数の人が丸の内エリアを「好き」「大好き」「『愛がある』と言えるほど大好き」と答えていることになる。

 なぜこれほどまでに、自分が勤めている街を好きになれるのだろうか。

丸の内エリアに対する、ファン度の割合。回答者の約50%の人が、かなり好意的な感情を持っている
丸の内エリアに対する、ファン度の割合。回答者の約50%の人が、かなり好意的な感情を持っている

 その答えにつながる指標の一つが、「ファン歴の分布」だ。コアファンに分類された人のうち、実はファン歴が10年以上と答えた人が全体の64.3%に上った。ファン歴=丸の内エリアでの勤務歴とまでは言い切れないが、街との付き合いが長いほどファン度が上がっていくと考えられる。

 フリーコメントにも、丸の内エリアとの関わりの長さについて触れる声が目立った。街のシンボルともいえる丸ビルは22年に開業20周年、新丸ビルは15周年を迎えた。「回答者の中心である40代女性の中には、大学生になって丸ビルへ買い物や食事に来るようになったという人も多い。『丸の内で働くことに憧れていた』『丸の内と一緒に成長してきた』と答えてくれる人もいた」(川村氏)

 また、新丸ビルについては、「ただの勤務地という感覚でいたが、新丸ビルの建て替えとともに街の整備が進み、どんどん好きになってきた」という回答もあった。一方で、「伝統を重んじながらも洗練された街並みがつくられている」といったように、“あえて変えない部分”を評価する意見もある。

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