正解のない難題と向き合うビジネスの現場で求められているのはクリエイティビティー(創造する力)――。デザインや広告キャンペーンなど表現領域をなりわいとしてきた広告クリエイターが、その活動領域を大きく広げつつある。本連載では、広告の枠を超え、独自の視点と発想でビジネス変革(BX=ビジネストランスフォーメーション)を推進する電通の「BXクリエイターズ」が、その流儀と手法を公開する。第7回のテーマは、デザインコンサルティング。電通は、世界的なデザインコンサルティングファームである米フロッグ(以下、frog)との協業でもBXを推進している。海外の最新事例や話題の生成AI(人工知能)などの技術トレンドを交え、今、ビジネスの進化と成長に求められるデザインとクリエイティビティーの真価に迫る。
さまざまなテクノロジーやイノベーションが次々と生まれている。その一方で新型コロナウイルスなど感染症の拡大、ウクライナ危機に伴う資源高、気候変動など、ビジネス上で考慮すべき要件は増え続けている。そんな混迷の現代で、時代の変化に押し流されないデザインとクリエイティビティーの価値をいかに生み出すか。電通BXクリエーティブ・センターの武重浩介氏とfrogのアントネロ・クリミ氏が、日米におけるビジネスとデザインの最新事例とともに、デザインとクリエイティビティーの本質的価値について議論した。
frogは、世界16都市にスタジオを有する世界最大規模のデザインコンサルティングファーム。創業は1960年。84年に発売となった米アップルの「Apple IIc」など、多数のデジタル機器のデザインを手掛けてきた。現在では、デザインリサーチから得られたインサイトをもとに、共創のアプローチでビジネスソリューションを創出し、戦略から実装まで支援する。2016年から電通と業務提携。仏ITコンサル、キャップジェミニの「Capgemini Invent」グループに所属している。
ARを活用したデザインの協働ツール
武重浩介氏(以下、武重) frogのサンフランシスコ・スタジオがあるのは、シリコンバレーのお膝元。米国のデザイン業界やクリエイティブ業界では、テクノロジーの進歩をどう見ていますか?
アントネロ・クリミ氏(以下、クリミ) テクノロジーは我々が提供するさまざまなソリューションにとって不可欠な存在ですが、数年前からその重要性はさらに高まっています。我々が手掛けた例の一つが、18年に開催となった米サンフランシスコ近代美術館の「ルネ・マグリット展※」です。AR(拡張現実)を使って、人々がシームレスに絵の中に入り込めるような仕掛けで、現実と非現実の境界をなくす絵画鑑賞体験をデザインしました。
武重 没入型の美術体験は、ここ数年世界各地で開催されていますよね。
クリミ そうなんです。最近の事例で特にエキサイティングなものは、frogが投資とデザインで関わった「Campfire(キャンプファイア)」と呼ばれるARによる製品デザインのコラボレーションツールです。これはホログラム技術を使ったビジュアライゼーションシステムで、専用のヘッドセットを装着すると、目の前に3Dモデルが浮かび上がります。手持ちのスマートフォンに専用機器を取り付けることで、各種の操作ができます。遠隔でもチームが協力しながら3Dモデルをデザインできるようになり、効率化や生産性の向上などの面で高い可能性を持つシステムです。
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