正解のない難題と向き合うビジネスの現場で求められているのはクリエイティビティー(創造する力)――。デザインや広告キャンペーンなど表現領域をなりわいとしてきた広告クリエイターが、その活動領域を大きく広げつつある。本連載では、広告の枠を越え、独自の視点と発想でビジネス変革(BX=ビジネストランスフォーメーション)を推進する電通の「BXクリエイターズ」が、その流儀と手法を公開。第6回のテーマは大企業とスタートアップの融合によるオープンイノベーションによる事業グロース(成長)だ。
あらゆる業界の企業が、単に新規事業やイノベーションを推進するだけでなく、ビジネス上の成長を求めている。目に見える成果を生み出すために、さまざまな手法やスキームが生み出されている。オープンイノベーションはその代表的なものだろう。研究開発は自社が担うものとされてきた日本企業では、オープンイノベーションの浸透は困難といわれてきたが、成功といえる事例を生み出す企業も登場してきた。
本記事では、ベンチャー企業の育成組織「KDDI ∞ Labo(KDDIムゲンラボ)」を統括し、日本のオープンイノベーションをけん引してきたKDDIの中馬和彦氏と、クリエイティビティーを活用した事業支援を手掛ける電通BXクリエーティブ・センターの作田賢一氏が対談。変革の10年を振り返りつつ、これからの事業成長の在り方とクリエイティビティーの関係を語る。
オープンイノベーションのきっかけは「ガラケー崩壊」
作田賢一氏(以下、作田) 遡ること15年。2008年当時、私はマーケターとして、auの携帯端末の商品企画を担当していた中馬さんと一緒に日々、新規端末のプロモーションやマーケット調査をしていました。そうした中で登場したのがiPhoneです。ビジネスの主役が一気にプロダクトからサービスになったことを、今でも鮮明に覚えています。
中馬和彦氏(以下、中馬) 一言で言うとガラパゴスの崩壊です。それ以前のガラケー時代は、サービスに国境があった時代でした。米国ではやっているものを日本に持ってくる、いわゆるタイムマシン経営が通用していました。しかし、スマホの登場とともに「App Store」や「Google Play」といった、サービス(アプリ)のグローバルマーケットができてしまったんです。そうしたプラットフォームにサービスを出すことで世界中の人が使えるようになる。今までのガラパゴスは完全に崩壊しました。
作田 あの当時はデザインケータイ(※1)に代表されるように、プロダクト(端末)をベースに考えていましたよね。iPhoneが出たときも、何台売れているのかと最初はデバイスとしてしか見ていなかったと思います。実際はサービス流通の革命が埋め込まれていた。
中馬 ガラケー時代はアプリマーケットをキャリア(通信事業者)がコントロールしていたので、常に我々の所に新しいプロダクトもサービスも持ち込まれていました。スマホの登場で、私たちを素通りして、米アップルや米グーグルに行ってしまうようになりました。待っていても来ないなら、我々から探しに行かなければならない、ということで始めたのがオープンイノベーションの取り組みです。
成長している企業はM&Aを活用
作田 10年以上にわたり、日本のオープンイノベーションをけん引してきた中馬さんですが、この10年間でオープンイノベーションが日本にもたらしたものはなんでしょうか?
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