広告の枠を越え、独自の視点と発想でビジネス変革(BX=ビジネストランスフォーメーション)を推進する電通の「BXクリエイターズ」が、その流儀と手法を公開する本連載。第4回のテーマは、会社のパーパスやミッション。会社の存在意義やビジョンを社内に浸透・機能させるのは難しい。会社と社員を動かす言葉をどう見つけるのか。

MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)/パーパスを経営の軸とする企業が増えているが、社員にうまく浸透できていないケースも多い
MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)/パーパスを経営の軸とする企業が増えているが、社員にうまく浸透できていないケースも多い

 急激な気候変動、パンデミック、インフレと不確実な時代が続き、持続可能な開発目標(SDGs)やサステナビリティー(持続可能性)の理念が広がっている。そうした中で、単に売り上げや利益の成長を追い求めるだけでなく、社会での存在意義を改めて問いかけるためのミッション・ビジョン・バリュー(以下、MVV)、パーパスに基づいた経営を目指す企業が増えている。

 これまでは、MVVやパーパスの取り組みをブランディングする、ESG(環境・社会・企業統治)に積極的な企業としてアピールすることで出資を得るなど、外向きに発信することを重視する企業が多かった。最近では、組織の文化をつくり、成長につなげるという本来の目的を主軸に考えるケースが増えてきている。

 動画配信・分析システムを手掛けるエビリー(東京・渋谷)は2021年に中期経営計画をまとめつつ、MVVも再定義した。06年の創業以来、SaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)事業で成長しつつ、動画制作サービスの事業にも注力をするようになった。21年は7億円の資金調達に成功し、社員も35人から70人以上と1年で2倍に増やすという「第2創業期」を迎えた。事業の方向が定まると、新たな課題が見えてきたというエビリー社長の中川恵介氏に、同社のMVV策定プログラムを提供した電通BXCC(ビジネストランスフォーメーション・クリエーティブ・センター)の中野良一氏が聞いた。

中川恵介氏。エビリー代表取締役社長。レコメンドエンジン開発会社シルバーエッグ・テクノロジー社の初期メンバー、セールス・マーケティング・事業開発に従事。2006年10月に個人事業主としてエビリーを設立、10年から組織化。サービスとして、YouTubeデータ分析ツール「kamui tracker(カムイトラッカー)」、動画配信システム「millvi(ミルビィ)」を開発・展開している
中川恵介氏。エビリー代表取締役社長。レコメンドエンジン開発会社シルバーエッグ・テクノロジー社の初期メンバー、セールス・マーケティング・事業開発に従事。2006年10月に個人事業主としてエビリーを設立、10年から組織化。サービスとして、YouTubeデータ分析ツール「kamui tracker(カムイトラッカー)」、動画配信システム「millvi(ミルビィ)」を開発・展開している
<今回のBXクリエイター>中野良一氏。電通BXCC所属。プランナー。YouTubeのキャンペーン「好きなことで、生きていく」など企業・商品ブランディングをはじめ、現職では商品開発や、MVV/パーパス策定プログラムの構築も行う。『カードキャプターさくら』、金澤翔子(書家)の展覧会企画・演出や、没入体験型ミュージアム「Immersive Museum」の空間プロデュースなど担当。日本空間デザイン賞、カンヌライオンズ、グッドデザイン賞など。著書に『ラグビーのルール 超・初級編』(ハーパーコリンズ・ ジャパン)、『野球のルール 超・初級編』(ベースボール・マガジン社)などがある
<今回のBXクリエイター>中野良一氏。電通BXCC所属。プランナー。YouTubeのキャンペーン「好きなことで、生きていく」など企業・商品ブランディングをはじめ、現職では商品開発や、MVV/パーパス策定プログラムの構築も行う。『カードキャプターさくら』、金澤翔子(書家)の展覧会企画・演出や、没入体験型ミュージアム「Immersive Museum」の空間プロデュースなど担当。日本空間デザイン賞、カンヌライオンズ、グッドデザイン賞など。著書に『ラグビーのルール 超・初級編』(ハーパーコリンズ・ ジャパン)、『野球のルール 超・初級編』(ベースボール・マガジン社)などがある

“会社の成長痛”を解決する言葉はあるか

中野良一氏(以下、中野) MVV/パーパスを再定義することになった経緯を改めて教えてください。

中川恵介氏(以下、中川) 規模が小さいときには言葉にせずとも伝わっていた目標や価値観を、会社全体で共有することが難しくなってきていると感じていました。エビリーはもともとSaaS領域のテクノロジー集団だったのですが、今は制作部門も拡張させています。社員も「テクノロジー人材」と「クリエイティブ人材」に分けています。この2種類の才能をワンチームにし、エビリーで働く全員の目標となるような言葉が必要になりました。社員の多くはそれぞれに経験を積んできた人たちなので、この多様な物の見方を生かしつつ、エビリーとしてのひとつの価値観を表す言葉が必要になったのです。

会社の成長期だからこそ、掲げるべき言葉が変わってきたと中川社長は語る
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中野 もともとは「動画の活用で企業の DX (デジタルトランスフォーメーション)推進を支援します」というミッションを掲げていらっしゃいました。組織の成長に伴ってアップデートする必要が出てきたわけですね。会社の成長痛といいますか。中期経営計画でそのあたりのファクト整理をされていたので、プログラム設計に反映させることができました。

中川 組織全体が1つになれる目標を掲げ、自分は優秀な人を集められるよう、その旗振り役になる。今回のプログラムでは言葉を新しくするだけでなく、私自身の役割も変えるきっかけにしたいと思っていました。

言葉の掘り下げで社員をクリエイティブモードに

 企業のMVV/パーパスの策定をクリエイターが支援する場合は、企業のトップや幹部からオリエンテーションを受け、クリエイターが案を提案することが多い。ただ、それだけでは社員を動かすことは難しい。言葉を導く鍵は、実際に会社を動かしている社員たちの心の底にある意志。そこで今回の支援プログラムではすべての部署から社員を募り、ワークショップを実施した。その中から、ミッション・ビジョンにつながる重要な“原石”を発掘できたという。

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