広告キャンペーンやデザインといった表現領域を生業(なりわい)とし、独自の視点と発想でビジネスを創造する「BXクリエイターズ」たちが、その流儀を公開する本連載。第2回のテーマは「UI/UX(ユーザーインターフェース/ユーザー体験)」だ。UI/UX設計は使いやすさこそが正義だと考えられ、その追求と共に進化してきたが、そこには危険が潜む。本記事では電通の松浦夏樹氏に、UI/UX進化の裏で生じている課題を聞く。
「誰もが使いやすい」は、無個性化の危険をはらむ
――昨今では設計のガイドラインやツールが整備されてきたことで、誰もが同じように使いやすいUI/UXをつくりやすくなりました。一見すると、あるべき良い進化のように思いますが、このどこに問題があるのでしょうか?
松浦夏樹氏(以下、松浦) 一番の問題はユーザー体験の無個性化です。通常、UI/UXのデザインガイドラインは、仕様が細かく決められているのですが、そうしたルールの順守が前提になっています。ガイドラインは使いやすくするためにつくられているので、当然それに従えば従うほどユーザーは使いやすくなっていきますが、一方でどのアプリを使っても同じような体験になるため、無個性化したUI/UXが量産されてしまう危険性をはらんでいるのです。ブランドの喪失ということでもあります。
そうした状況に陥らないために“使いやすさの大義名分”に背いたとしても、ブランドの個性につながるユーザーへの価値提案と、そのためのオリジナリティーがあるUI/UX設計を行うことが大事です。ユーザーが既に慣れ親しんだ行動を変えるような設計をするのですから、それ相応のリスクを引き受けることになりますが。
筆者とユーザーの関係の変革に挑んだ「PIVOT」のUX設計
――オリジナリティーのあるUI/UX設計とは、どういったものでしょう?
松浦 例えば、私が担当させていただいた「PIVOT(ピボット)」というビジネス系ニュースメディアのUX設計があります。この時に重視したのは、「筆者とユーザーの新しい関係」をつくり出すことでした。
最近のウェブニュースにはコメント欄が付きものです。他のユーザーの反応を知ることができる一方、記事の内容が原因でコメント欄が炎上することも多く起こっています。そしてそれは筆者の大きなストレスになっています。そうしたことから「筆者とユーザーの本当に良い関係とはどういうものか?」を徹底して問い、PIVOTではコメント機能をあえてつけず、代わりに「ハイライト機能」というものをつけました。
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