※日経エンタテインメント! 2022年11月号の記事を再構成
10月までTVアニメ2期が放送された『ラブライブ!スーパースター!!』は、シリーズに新風を吹き込む意欲作として評価が急上昇。主役のLiella!(リエラ)も来年3月にドーム公演が決定するなど、TVアニメとリアルライブの両面で勢いに乗っている。成功の背景には、大胆な変革を起こしつつ『ラブライブ!』らしさも継承する戦略があった。
ラブライブ!シリーズとは?
第4作『ラブライブ!スーパースター!!』
シリーズ4作目となる『ラブライブ!スーパースター!!(以下、スーパースター!!)』は、独自性とシリーズらしさの継承で、多くのファンを魅了した。
既存シリーズから大きく変更されたのは、スクールアイドルグループのメンバー構成。それまでの3作では、高校1~3年生のうち各学年3人ずつ、計9人のメンバーでグループを構成。シリーズ3作目の『ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』では追加メンバーが登場し、計12人のメンバー構成になったものの、1学年1人ずつに振り分けられていた。
スーパースター!!は当初、舞台となる高校が新設校のため、グループメンバーは1年生5人という構成に。22年7月から放送中のTVアニメ2期では、1年生5人が2年生に進級し、新入生の1年生4人が新たにメンバーへ加わるなど、過去類を見ない展開となった。
また既存シリーズではメンバー全員の加入時期はほぼ同じで、先輩・後輩の隔たりが薄く、実力や経験にほぼ差はなかった。しかし、スーパースター!!は加入時期が異なることで先輩・後輩という関係性や、1年間の活動期間を経た2年生と新入生の1年生との実力や経験の差が描かれており、それが物語のポイントともなっている。
作品とグループがシンクロ
その構図は、キャストによるLiella!においても同様だ。既存メンバーを「1期生」、追加メンバーを「2期生」と呼び、「2期生」が「1期生」を目標に置いていることは、μ’s(ミューズ)やAqours(アクア)と大きく異なる点だろう。
既存グループはシリーズへの出演前から芸能活動をしていたキャストで構成されているが、Liella!の伊達さゆり、青山なぎさ、鈴原希実は一般公募オーディション出身者。だからこそ、柔軟な音楽活動をできることも強みだ。1stアルバム『What a Wonderful Dream!!』はメンバーイラストによるジャケットだけでなくアーティストジャケット(フォト盤)が発売。キャスト版ミュージックビデオも公開された。
ライブ面では、アニメ関連イベントへの出演に加え、SUMMER SONIC、CDTVライブ!ライブ!フェスティバルなどのライブイベントにも精力的に出演。音楽専門チャンネルMTV制作の『MTV Unplugged』にも登場し、イスに腰掛けてのアコースティックライブを披露した。ツアーにおいて、公演数では過去最多だったAqoursの4都市全8公演を大きく上回り、1stツアーでは10都市全22公演、今年12月から開催する3rdツアーも7都市全14公演と“アーティスト”と呼ぶにふさわしい日程を組んでいる。
「ラブライブ!シリーズが今まで築き上げてきた、キャストによる高いクオリティーのパフォーマンスを多くの人に届けていこうという気概を『スーパースター!!』からはより強く感じます。それは、プロデュース側がキャストにその力があると信じているからだと思います」とタワーレコード新宿店でアニソン売り場のバイヤーを務める樋口翔氏は解説する。
同時に劇中では、スクールアイドルの祭典「ラブライブ!」優勝を目指すということ、TVアニメ2期におけるメンバー「9人」という数字へのこだわりなど、既存シリーズから受け継いでいる要素も数多い。それは1作目の『ラブライブ!』、『ラブライブ!サンシャイン!!』でシリーズ構成を務めた花田十輝が本作にも関わっている影響も大きいと思われる。楽曲面についてもタワーレコードの樋口氏は「温故知新」と指摘する。
「『虹ヶ咲』はメンバーのソロに振り切り、多様なクリエーター陣が楽曲制作に携わり新たな魅力の開花と新規ファン層の獲得に成功しました。『スーパースター!!』は『ラブライブ!』の原点を思い出させてくれるサウンドプロデュースだと思います。特に2期の挿入歌は、μ’sやAqoursがメンバーを集める過程で歌ってきたような『私たちと一緒にスクールアイドルを楽しもうよ!』と、聴く人に手を差し伸べるようなタイプの楽曲が多い印象です」
作詞面においてはLiella!の楽曲の歌詞の多くをシリーズ初参加の宮嶋淳子が担当、μ’s、Aqoursの全楽曲の作詞を手がけてきた畑亜貴による「アイドルと歌詞の密接な関係」を強く感じさせてくれる作りになっており、こちらも既存シリーズから受け継いでいる要素だろう。
10年を超えてもなお、フレッシュな印象を与え、愛されるシリーズであり続けられるのは、既存シリーズをリスペクトしつつ、思い切った変革に同時に取り組んでいるからこそと言えそうだ。