リテールメディア大研究 第3回

小売りやメーカーが、「リテールメディア」に熱い視線を送り始めている。一方で、まだその定義はあいまいだ。店舗にサイネージを設置する、アプリに広告バナーを貼るというだけでは不十分。「購買データ」という、小売りならではの強みを生かすことがリテールメディアの基礎となる。アドインテ(京都市)やサイバーエージェントなどの支援企業への取材から、リテールメディアづくりに必要な5つのステップが見えてきた。

(写真/Shutterstock)
リテールメディアを開発する上で必要になるステップを5つに分けて解説する(写真/Shutterstock)

 なじみのスーパーに行く。そのスーパーのアプリを開いてみたところ、前回買ったペットボトル飲料のクーポンが配信されてきた。気に入った商品だったので、再び購入してみることにした――。

 小売りの購買データを用いて、そんなマーケティングを可能にするのがリテールメディアだ。特集第1回でも解説したように、スーパーマーケット、ドラッグストア、コンビニエンスストア、家電量販店など、日本でも大手小売事業者が続々と参入し始めている。

 支援会社の動きも活発化している。企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)支援を手掛けるアドインテは、ツルハホールディングスをはじめ、イオングループのマックスバリュ西日本(広島市)、埼玉を中心にスーパーを展開するベルク(埼玉県鶴ヶ島市)などとともに広告サービスを開発している。大手ネット広告代理店の立場では、サイバーエージェントが、ヤマダホールディングスなど数十社以上のリテールメディア開発を手掛けている。

リテールメディアに注目が集まる2つの理由

 リテールメディアに注目が集まる背景には、大きく分けて2つの要因がある。1つ目が、新型コロナウイルス禍だ。

 コロナ禍で多くの小売店が営業自粛に追い込まれ、顧客との接点が失われた。リアルでの接点をあてにしていた企業は、デジタルという新しい顧客接点の必要性に迫られた。「アプリやECサイトに力を入れなかった企業が、自社の顧客とのつながりの弱さに気付いた瞬間だった」と、アドインテ取締役副社長兼COO(最高執行責任者)の稲森学氏は指摘する。

 この弱点を克服しようと、小売りのDXが急速に進んだ。サイバーエージェントAI事業本部DX本部統括の藤田和司氏は、次のように説明する。「コード決済などの普及によって、オンライン上の広告とオフラインの購買データがつながるようになってきた。デジタル広告は計測技術の確立によって、市場が急拡大した。リテールメディアはまさに広告効果を購買データで計測可能になったばかり。今後、成長の期待が大きい」

 2つ目の背景が、脱クッキーの流れだ。プライバシー保護の観点から、消費者の許可なくWebサイトの利用データを取得することなどへの規制が強まっている。その象徴が「サード・パーティー・クッキー」だ。広告業界などの反発を受け、実施の延期が続いているが、米グーグルは将来的にWebブラウザー「Chrome」でサード・パーティー・クッキーの受け入れを停止する方針だ。

 従来、デジタル広告の配信に使われてきたインフラ的存在のサード・パーティー・クッキーの利用に制限がかかることで、既存の広告サービスは効果を維持することが難しくなる可能性が高い。そこで、注目が高まっているのが「ファースト・パーティー・データ」、すなわち事業主が保有するデータだ。

 中でも、小売りのデータはより注目度が高い。来店客の購入商品や頻度などといった購買行動データは、密接に消費と結び付く。ある商品の購入経験がある、または、過去に購入していたものの離反した層などに向けて、ピンポイントでアプローチできるという強みがある。ただし、ピンポイントといっても、個人ではない。プライバシーに配慮して、個人が特定できないように一定規模のあるグループに向けて配信する。小売りとしても、購買データを活用した広告事業の展開で、より利益率の高い新たな収益源になる可能性を秘めている。

リテールメディアをつくる5ステップ

 一方で、リテールメディアは新しい概念だけに、その定義が定まってはいない。そのまま解釈すれば「小売りの広告メディア化」だが、店頭にデジタルサイネージを設置しただけでは、リテールメディアとは言い難い。なぜなら、それでは広告の表示場所を増やしたにすぎず、小売りが手掛ける広告事業の肝である「購買データ」の活用に結び付いていないからだ。

 サイネージに流れている情報が、手元のスマートフォンのアプリでも見られる。棚の前に立つとプッシュ通知で対象商品のクーポンが配信される。「データを軸にリテールメディアならではの顧客体験をつくることが重要」と稲森氏は説明する。

 では、そのようなリテールメディアはどのようにしてつくっていけばいいのか。リテールメディアを支援する企業への取材から、5つのステップが見えてきた。

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