続・Shopify、BASE、STORES研究 第2回

“自宅でつくれる梅酒キット”が人気を集めている。手掛けるのは、チョーヤ梅酒(大阪府羽曳野市)の社内ベンチャーとして2018年4月にスタートした、梅一粒から梅シロップや梅酒づくりが楽しめる体験型ショップ「蝶矢」だ。22年11月現在、直営店2店舗とShopify(ショッピファイ)で構築したECサイトを展開する。事業が軌道に乗ったことを受け、21年4月には、CHOYA shops(大阪府羽曳野市)として分社化した。顧客の65%以上は20~30代、女性が全体の90%以上を占める。若い世代を引きつけるECサイト運営の極意とは?

梅体験専門店「蝶矢」のECサイトトップページ
梅体験専門店「蝶矢」のECサイトトップページ

 「一人で事業を立ち上げること」「事業単体で収益を上げること」――。この2つの約束事の下、チョーヤ梅酒の社内ベンチャーとして2018年4月にスタートしたのが、梅体験専門店「蝶矢」事業だ。

 新規事業の発起人は、21年4月に分社化したCHOYA shopsの菅健太郎社長。15年以上チョーヤ梅酒の工場で勤務してきた菅氏は、長年、次世代の若い人たちに梅の魅力を伝えていきたいと考えていた。そこで、実際に梅を使って梅シロップや梅酒をつくり、若い世代や梅に親しみのない外国人に日本の手作り文化を伝えていく場をつくれないかと、事業計画を書いて社長に直訴。

 当時社内では新規事業を公募していたわけではないが、菅氏の熱意が伝わり、冒頭の2つの約束事を守るという前提で、18年に京都に1号店をオープンした。すると瞬く間に収益を上げ、20年には神奈川・鎌倉に2号店を開設。新型コロナウイルス禍に見舞われた同年にはECサイトもオープンし、現在全体売り上げの15%ほどまでに成長している。

 ECサイトやSNSアカウントの開設、PR、マーケティング施策など事業に関わるすべての立ち上げを行ってきたのは、会社との約束通り、菅氏一人だ。しかも菅氏は事業開始時、これらすべてにおいて経験がなかった。なぜ同氏は未経験でありながら、事業を軌道に乗せることができたのか? ユーザーが自宅で梅酒をつくる際の「つまずき」ポイントを乗り越えられるよう、メルマガやLINEによるサポートで成功体験に導くなど、若い世代に支持されるECサイトの運営の極意を4つのポイントに分けて紹介する。

実店舗で行っている体験の様子
実店舗で行っている体験の様子

コロナ禍で試験的にEC開設。受注量を把握し、本ローンチへ

 1つ目のポイントは、スピード重視の施策だ。事業開始から2年ほどたった20年。2店舗目のオープンを控えるなど、順調に事業規模を拡大していたが、新型コロナウイルス禍に見舞われ、店舗は休業を余儀なくされた。店舗で働く従業員の雇用も守らなくてはいけない。菅氏はすかさずECサイトの開設を決め、休業している店舗を出荷拠点として商品を発送することにした。

 「工場勤務が長く、コードが書けるわけではない。そんな素人でも一人でスピーディーに立ち上げたいと、知り合いから噂を聞いていたShopifyでECサイトを開設した」(菅氏)

 CHOYA shopsにはメールやLINE、Instagramなどの各種SNSでつながった実店舗の顧客基盤がある。加えて、ECサイトオープン時にプレスリリースを発信したこともあり、新型コロナ禍の“おうち時間”で、自宅で梅シロップや梅酒づくりを楽しみたいと考えている潜在顧客の目にも留まり、EC売り上げを順調に伸ばしていった。

CHOYA shopsでは梅と砂糖を使い客自らがつくる、梅シロップや梅酒を提案している。インスタ映えする華やかな見た目もあり、20~30代の若い女性の支持を得る
CHOYA shopsでは梅と砂糖を使い客自らがつくる、梅シロップや梅酒を提案している。インスタ映えする華やかな見た目もあり、20~30代の若い女性の支持を得る

 2カ月ほどして実店舗の営業を再開すると、ECサイトはいったん閉鎖。テストローンチ時点である程度の受注量が見込めたことにより、そこから約半年かけて、ECサイトの本ローンチに向けて体制を整えることになった。その間、他のECプラットフォームとの比較検討も行ったが、最終的にはShopifyで継続することに決めた。その理由について、菅氏は「CHOYA shopsの受注量では、Shopifyが取引手数料を最も抑えられた。また、素人でも体裁の整ったデザイン性の高いECサイトを構築できるという点もよかった」と振り返る。

売り上げ貢献度の高い3つのShopifyアプリ

 2つ目のポイントは、Shopifyアプリの活用だ。ECサイトを本ローンチしたのは、21年1月。テストローンチ時は実店舗から商品を発送していたが、外部に物流拠点を構えて本格展開に備えた。

 本格稼働が始まってECサイトを利用するユーザーが増えると、さまざまな要望が寄せられるようになった。それらの要望に応えるべく、CHOYA shopsでは適したShopifyアプリの選定を行い、現在15ほどのアプリを活用している。そのうちの半分程度のアプリ選定には、22年に行ったブランドサイトとECサイトの統合リニューアルプロジェクトをサポートした、D2C(ダイレクト・ツー・コンシューマー)ブランド支援のフラクタ(東京・渋谷)が関わっている。

 22年11月現在利用しているアプリのうち、特に売り上げへの貢献度合いが大きいのが、次の3つだ。

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