できるクリエイターの仕事術 第3回

デザインから戦略まで手がけ、「wemo」「STTA」「朝ボトル」など次々にヒット商品を生み出すkenma(東京・新宿)。代表の今井裕平氏は大学で建築を学び、経営コンサルタントの勤務経験もある。そうした経験を踏まえ、「建築思考」ともいえる独自の思考法を身につけた。

「建築思考は、いろいろな要素をフラットに捉える。人間中心ではなく、人間も1つの要素にすぎないと考える」(写真/名児耶 洋)
「建築思考は、いろいろな要素をフラットに捉える。人間中心ではなく、人間も1つの要素にすぎないと考える」(写真/名児耶 洋)
今井 裕平(いまい ゆうへい)氏
kenma代表、ビジネスデザイナー
神戸大学大学院を修了後、安井建築設計事務所、日本IBM、電通コンサルティングなどを経て、2016年にkenmaを設立。中小企業の技術力を生かし、その会社の看板商品となるようなヒット商品を生み出し続けている

 機能性フィルムを主力とするコスモテック(東京都立川市)が開発し、腕に巻いて使用するリストバンド型のウエアラブルメモ「wemo」は、2017年に発売すると約3年で同社売上高の約15%を占める事業に成長した。

 BtoB向けとして産業用の吸水スポンジ事業を行うアイオン(大阪市)は、BtoC向けの新ブランド「STTA」を22年2月に発売。手洗いや通勤時の雨など日常生活に使える吸水スポンジのタオルとして訴求すると、初回在庫がわずか1週間で完売したという。

 さらにコスモテックは22年7月にwemoのフィルム加工技術を応用したWeb会議用のホワイトボード「wemo paper flip board」を発表すると、「第31回日本文具大賞2022」のデザイン部門グランプリを受賞。大いに注目を集めた。

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 これらの開発の背後には「仕掛け人」とも呼ぶべき人物がいる。kenmaの今井裕平氏だ。デザインからブランディング、企業戦略なども担当する、いわばビジネスデザイナーである。

 「日本の中小企業は高い技術力はあるが、デザイン力と企画力がないばかりに成長の可能性を逃している。とがった技術に、さらなる強みを発掘し、自社の代名詞となる看板商品をつくる。これをkenmaでは『フラッグシップデザイン』と呼び、経営者の視点で事業化を支援し、成果を数字で示している」(今井氏)

 今井氏の思考法を一言で表現するなら「建築思考」といえるだろう。大学では建築分野を学んだが、その後は設計事務所に加え、企業戦略のコンサルティング会社にも勤務した経験がある今井氏は、さまざまな視点から考えるようにしているという。

多くの要素を1つの解決法で横串

 建築の場合、利用者の使い勝手やデザインはもちろん、設計や法律はどうか、土地の特性や地元の歴史、さらには周囲の住民との関係など、多くの要素を考慮しなければならない。各要素を俯瞰(ふかん)し、統合しながら、解決策としてまとめることが求められる。使い勝手などを中心に見るデザインとは、視点が異なるという。

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