「アイデアの出し方」「思考の整理法」「観察・リサーチ術」「クライアントとの関係構築」──優れたクリエイターの仕事のやり方には、参考になる点が少なくない。ほかにはないアイデアをどのように発想するのか、それをどのように現実にまとめてあげていくのか。マーケターからデザイナー、経営者まで含め、今注目のプロジェクトや商品を手がけたさまざまなクリエイターに、その「仕事術」を聞いていく。第1回は、ソニーグループのクリエイティブセンターで活躍する前坂大吾氏だ。

「ビジネス側がデザイン側に寄ってきている。だから、『デザイン側も寄っていこう』と言っている」(写真/名児耶 洋)
「ビジネス側がデザイン側に寄ってきている。だから、『デザイン側も寄っていこう』と言っている」(写真/名児耶 洋)
前坂 大吾(まえさか だいご)氏
ソニーグループ クリエイティブセンター
スタジオ5 クリエイティブディレクター

広告制作会社を経て2008年ソニー入社。10年英国赴任。13年帰国。コーポレート領域のコミュニケーションデザインや「aibo」のブランディングなどを担当

 コミュニケーションデザイナーの前坂氏は、近年、自身の職能と同様に、デザインの社会的なポジションが大きく変わりつつあると感じている。中でも劇的な変化が、デザイン思考やデザイン経営というキーワードの普及により、経営層がデザインに興味を持ち始めている点だ。

 「デザイナーの考えや能力を経営に取り入れたいということで、ビジネス側の人たちがデザイン側に寄ってきている印象がある。だからいつも、『デザイン側も寄っていこう』と言っている」(前坂氏)。両者の接近を実感したのが、2019年に発表したソニーモバイルコミュニケーションズ(現、ソニー)のコーポレートビジョン策定のプロジェクトだ。

「良いこと」より「悪いこと」

 当時の前坂氏は、担当するスマートフォン「XPERIA」のコミュニケーションデザインの統一感が失われていると感じ、ブランド力の低下を危惧していた。そこで、ブランドとしての一貫性を取り戻す、新たなコーポレートビジョンを定義したいと考えた。

 思い切って、当時のソニーモバイルコミュニケーションズの社長に提案すると、「全社でやろう」と強く賛同を得た。その結果、社長や各部門のマネジメント数十人が参加するワークショップを経て、コーポレートビジョンの刷新に至ったのだ。

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 前坂氏のチームは、19年にソニーグループ会長 兼 社長 CEOの吉田憲一郎氏が発表した、「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす」というパーパスなどの策定にも参画している。ソニー銀行の役員と取り組んだリブランディングでは、じっくり時間をかけて、社内外への浸透に力を入れている。「今までは世に出したら終わりの静的なデザイン。それが、デザインプロセスやその後の浸透、積み上げが重要な動的なデザインに変わってきている」(前坂氏)

 前坂氏はインハウスデザイナーとして経営層とも対してきた経験から、仕事に取り組むときに心がけていることがある。

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