
味の素が2021年11月に発売したEC専用商品「マッケンチーズ」が計画比1.5倍の好調な売り上げをたたき出した。ヒットの背景の一つといえるのが、プラグ(東京・千代田)のAI(人工知能)を活用したパッケージデザイン評価サービスを商品開発に取り入れたことだ。“売れるパッケージ”をどのようにつくったのか。
Amazonや楽天市場などECでの販売を強化している味の素は、2020年からEC専用商品としてスティックタイプのスープや、コムタンクッパなどのレトルト食品シリーズを発売してきた。そんなEC専用商品の第3弾として企画されたのが、21年11月に発売された「マッケンチーズ」だ。
マッケンチーズとは、米国で親しまれている家庭料理「マカロニ&チーズ」の愛称で、とろりと濃厚なチーズソースがマカロニに絡んだグラタンの一種。映画『ホームアローン』で、ケビン役のマコーレ・カルキンが食べていた、あれだ。21年2月には、モスバーガーで「マッケンチーズ&コロッケ」が期間限定発売され、話題を呼んだ。
味の素が主戦場とする小売店では、マス広告によるイメージ形成やPOP(店頭販促物)などでついで買いを期待できるが、ECは基本的にユーザーがほしい商品を自分で検索し、販売サイトにたどり着いてもらう必要がある。
マッケンチーズの開発を担った味の素生活者解析・事業創造部ECグループマネージャーの谷田泉氏は、「万人受けするメニューよりも、一部の人が熱中してそこから話題が広がる“やみつきメニュー”がECには適していると考えた。そうしてたどり着いたのが、マッケンチーズ」と話す。
コンセプトをとがらせて想定ユーザーを絞ったEC専用商品だから、当然、開発コストはできるだけ抑えたい。そこで浮上したのが、プラグの「パッケージデザイン AI」だ。味の素はEC専用第2弾のコムタンクッパなどの開発時から同サービスを活用している。
パッケージデザインAIは、食品や飲料、日用品など1万200商品について、1020万人に上る消費者調査をした結果をAIの学習データに使い、東京大学とプラグが共同研究したもの。作成したデザイン案をWebサイトにアップすると、そのデザインに対する消費者の好意度と、好意度のばらつき、「かわいい」「色味が良い」「おいしそう」といった19個のイメージワードなど、わずか数十秒でAIによる評価が示される。費用は1画像に付き1万5000円(アドホックプランの場合)だ。
「従来はパッケージデザインの評価にリアルな場で100人規模の調査を行っていた。謝礼も必要で、デザイン開発全体では数百万円のコストがかかる。それを大幅に削減し、かつかなりの時間短縮につながった」(谷田氏)
併せて、これまでは広告部経由でデザイン会社に依頼していたフローを見直し、谷田氏が直接新規のデザイン会社とやり取りをすることとした。その際、デザインに関しては“素人”の谷田氏を助けたのが、パッケージデザインAIによる評価だ。「デザインの修正や最終決定において、数値をよりどころにして判断できることは強みになった」(谷田氏)という。
では、どのような過程を経てマッケンチーズの最終パッケージデザインが決まったのか。詳しく見ていこう。
AI評価とEC担当評価でデザイン案を絞り込み
まず、AIの評価にかけるパッケージデザイン案をデザイン会社に発注するのだが、ここではマッケンチーズが日本人になじみのないメニューであることを踏まえ、味の素が求めるデザインの方向性を示した。例えば、EC専用商品なのでスマートフォンで見ても即座にイメージが伝わるよう、シズル写真を大きくする、商品名をしっかり見せるといったことだ。参考までに先行したモスバーガーの例も示した。
そうして出てきたのが、以下A~Iの9案だ。シズル写真をメインに商品名も際立たせたものから、F案のように湯を注いでぐるぐる混ぜて食べる体験をビジュアル化したもの、米国の国民食的なイメージに振り切ったアメコミ風のI案まで、どれも工夫を凝らしている。
ここから従来通り人間の感覚で選ぶなら、好みは様々なので意見はまとまりにくいはずだ。その点、パッケージデザインAIの評価が道しるべとなる。評価結果が下の画像だ。
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