※日経エンタテインメント! 2022年9月号の記事を再構成
中田敦彦、小島よしお、カズレーザーといった高学歴タレントが教育系YouTuberとして活躍する昨今。もともと教える立場だった塾講師などが、学生向けに勉強方法や受験対策を教えるタイプの動画も盛り上がっている。その先駆け的存在が、登録者数182万人を誇るチャンネル「とある男が授業をしてみた」で知られる葉一(はいち)氏だ。塾講師の経験をもとに、10年前の2012年から、小中高生向けに算数や数学の解説動画を中心に上げ始めた。各動画は10分ほどで、「中3:因数分解」など、学年と単元ごとに分けているのも特徴だ。YouTuberに転身した背景には、「教育格差をなくしたい」という思いがあったという。
塾講師時代に、家庭の収入格差で教育の選択肢が変わると知って、その現状から「子どもや親御さんから、お金をもらわずに教育を届けたい」と思ったのが、YouTubeを始めたきっかけです。
動画を上げ始めた当時、教育系YouTuberも多少はいました。しかし、教材の販売を誘導するような動画が多かったり、YouTube自体の社会的認知度も今ほど高くなかったりしたので、「聖域の教育を持ち込むな」と厳しい言葉を掛けられたこともありました。
風向きが変わり始めたのは、開設から約3年が経った頃です。コメントに「役に立ちました」「点数が伸びました」といった、子どもたちからと思われる声が増えていったんです。
もう1つ後押しになったのは、20年のコロナ禍による全国一斉休校ですね。保護者や教育関係者にも注目してもらえるようになり、登録者数が前年比1.5倍と、過去最高の伸び率を記録。学校の先生からもメールで「子どもたちに紹介していいか」といった声も届くようになりました。
印象を決めるのは板書
葉一氏の動画を再生すると、問題文の描かれたホワイトボードが真っ先に目に飛び込んでくる。そこに必要事項をマーカーで記入して授業を進めていくスタイルだが、板書やトークに関しては強いこだわりを持っている。
YouTubeは最初の6~7秒が勝負と言われる世界なので、タップした瞬間の印象を決めるのは板書だと思っています。なので、問題文などの文字をキレイに書くのはもちろんのこと、スマホの画面でいかに読みやすいサイズかも意識しています。いろいろ試した結果、現在は3.5センチと、4センチの2種類のサイズの文字を使い分けています。
あと、どうしても一方通行の授業になってしまうので、できるだけ相手に疑問を残さないことも大切です。そのため、難しい言葉は使いません。というのも、そこに「?」が浮かんでしまうと、後の授業の内容が入ってこなくなる。例えば、「反復してね」は「繰り返し学習してね」と分かりやすく伝えるように心掛けています。
また、子どもたちの休校期間に力を入れていたのが、ライブ配信の「自習動画」です。生活リズムを崩さないために、午前中に1時間、一緒に勉強する時間を設けていました。それが意外にも、「すごく勉強がはかどる」と好評だったので、今でも夜にときどき配信しています。
動画での勉強を当たり前に
これまではエンタテインメントの側面が目立っていたYouTubeに、実用性という新風を吹き込んだ教育系動画。学生の入学や進級が毎年あるため、「廃れない」ことが強みでもある。そう語る葉一氏は、ジャンルの将来像も見据える。
中田敦彦さんや小島よしおさんなど、知名度がある方が参入してくれたおかげで、教育系ジャンルの認知度は大きく向上したと思います。そのなかでも、やはり中田さんは別格ですね。長尺ながらも内容のまとめ方が上手で、噛み砕いて分かりやすく伝えられる話術も備えていて、王様だと思っています(笑)。
ただ、YouTubeで勉強する子たちはまだまだ少ないのが現状です。いずれは「誰の動画で勉強しているの?」と子供たちが言い合える社会が来るよう、シーンを盛り上げていきたいです。
従来はエンタメコンテンツが中心だったYouTubeだが、近年「教育」が1つのジャンルとしてポジションを確立している。現在はその中でも流派が大きく2つに分かれる。
1つは、慶應大学出身の中田敦彦(オリエンタルラジオ)をはじめとした、高学歴芸能人YouTuberだ。同志社大学出身のカズレーザー(メイプル超合金)も「カズレーザーの50点塾」(33万人)で、定期テスト向けの授業動画を配信。早稲田大学出身の小島よしおは、「小島よしおのおっぱっぴー小学校」(13万人)で、小学生向けに楽しみながら学べる算数の授業を行っている。
そして最近注目度が上がっているのが、塾講師や予備校講師出身のYouTuberだ。その代表例が葉一氏で、彼が主に扱うのは、教科書をベースにした基礎的な内容。逆に、ハイレベルな授業を展開するのが、元予備校講師・ヨビノリたくみの「予備校のノリで学ぶ『大学の数学・物理』」(92万人)。大学受験を目指す理系の高校生などから支持を得ている。教育系チャンネルは、エンタメの要素を残しつつも、より真剣に学業に向き合いたい視聴者の声に応え始めているようだ。