※日経エンタテインメント! 2022年9月号の記事を再構成
テレビ業界でディレクターや演出家として活躍し、そのノウハウを生かしてYouTubeでも活躍する、元テレビマンクリエーターが増えている。YouTubeで配信される動画にクオリティーが求められ始めた結果、テレビ制作のノウハウが生かしやすくなったことなどがある。成功例は大きく2つに分かれる。芸能人やタレントと組むパターンと、独自のチャンネルを立ち上げるパターンだ。前編では、「エガちゃんねる」を手掛ける、藤野義明氏に取材したが、後編では日本No.1の野球チャンネル「トクサンTV」(70万人)をはじめ、複数のチャンネルを立ち上げる、元読売テレビのプロデューサーの平山勝雄氏に話を聞いた。
日本NO.1の野球チャンネル「トクサンTV【A&R】」(登録者70万人)、裏社会をテーマにしたマンガ系チャンネル「ヒューマンバグ大学_闇の漫画」(160万人)、エモくてシュールなアニメコント「マリマリマリー」(126万人)など、複数の人気YouTubeチャンネルを次々と生み出している、ケイコンテンツ代表取締役の平山勝雄氏。
彼は、元読売テレビの番組プロデューサーで、『秘密のケンミンSHOW』(日テレ系)など、様々な番組の演出を手掛けてきた経歴を持つ。その経験がYouTubeの動画作りにも生きている。
2016年頃、働き方改革で時間に余裕ができたので、休日にやっていた草野球のYouTubeチャンネル「トクサンTV」を趣味で始めたんです。当時、草野球の試合の様子を上げるチャンネルは他にもあったんですが、野球の楽しさや技術指導まで伝えるチャンネルはなかったので、徐々にそちらにフォーカスしていきました。
作り方で意識しているのは、テレビのロケ番組のような形にしていること。うちの野球チームのメンバーの「トクサン」(徳田正憲)と「ライパチ」(大塚卓)が出演者となり、様々な野球にまつわるロケに行ってもらい、それを見た野球好きの視聴者がいろいろ熱く語りたくなる構成にしています。
また、田中将大投手、前田健太投手といった超一流のプロ野球選手たちにもご出演いただけているのは、テレビプロデューサー時代のコンプライアンスの感覚が生きているかもしれません。プロ野球球団の肖像権に対する考えや、用具メーカーさんが一生懸命作った商品への思いなどもちゃんとくみ取るようにしているので。そういったことが信用につながっているのかなと思います。
再現VTRのノウハウを
「トクサンTV」を軌道に乗せた後、19年に「ヒューマンバグ大学」、20年に「マリマリマリー」を開設。その2つにもテレビ時代の経験が注がれている。
「ヒューマンバグ大学」は、マンガYouTubeが盛り上がり始めていた頃だったので、そこに目を付けました。当時はオールジャンルのマンガチャンネルが多かったので、我々は切り口をちゃんと設定しようと。世界中の凄惨な事件や犯罪などの実話から教訓を学ぶというコンセプトにすることで、視聴者に対して「こういうコンテンツだよ」という目線を付けました。現在はそれが昇華してオリジナルの裏社会ストーリーを展開しています。
また、演出面では、テレビで再現VTRを作っていたノウハウが詰まっていますね。ナレーションとセリフで話を引っ張っていき、適切なタイミングでベストな効果音を入れていく。これはまさに再現VTRでやっていたことなんです。
「マリマリマリー」は、先の2つのチャンネルで一定の成功を収めたので、トーク系の動くアニメにもトライしてみたいと思っていました。その時、テレビ時代に親交のあった、四千頭身や土佐兄弟のネタライブも担当する若手構成作家・深見シンジ君らがその領域に挑戦していたので、共同で制作することになったんです。シティポップ風のイラストで描かれた若者たちが、シュールな会話劇を繰り広げるアニメコントなんですが、世界観が今の若い子たちに刺さっているようです。僕はこのチャンネルに関しては、チーフプロデューサー的な立ち位置で、若いスタッフが楽しんで作っています。
テレビ時代の経験やノウハウでYouTube界を席巻している平山氏。その活躍のフィールドは、テレビ局員時代以上に広がっていきそうだ。
「トクサンTV」は、野球業界とも関係性ができてきているので、侍JAPANのような国際舞台でも何か協力できればと思い描いています。また、「ヒューマンバグ大学」はテレビアニメ化も決まったので、目指せ『鬼滅の刃』じゃないですけど、いつか国民的ヒットを目指したいですね。マンガ動画はいろんな展開が可能なので、「マリマリマリー」含めて、今後ともさらに盛り上げていければと思います。
一昔前は「テレビマンはYouTubeを作れない」と言われた時代もありました。しかし、今後も我々が成果を出し続けることで、「メディアが変わっても、テレビマンは面白い作品を作るんだ」と言われるようにしたいですね。