※日経エンタテインメント! 2022年9月号の記事を再構成

今年上半期の新規開設チャンネルランキングで壱百満天原サロメの登録者数が1位になるなど勢いが止まらないVTuberシーン。連載「VOV」を担当する一翔剣の“中の人”の吉田尚記・ニッポン放送アナウンサーがその人気の本質を解説する。

ニッポン放送の吉田尚記アナと一心同体の“バーチャル部下”一翔剣アナもVTuberの1人
ニッポン放送の吉田尚記アナと一心同体の“バーチャル部下”一翔剣アナもVTuberの1人

 2014年に私が製作総指揮を手掛けた生放送アニメ『みならいディーバ』(注1)をその始祖として挙げてくれる方もいるVTuber。近年、2次元の絵を動画にするLive2Dや3Dを動かすモーションキャプチャー技術が、ユーザーレベルでも活用できるようになり、16年に活動を開始したキズナアイのチャンネル登録者数が、17年末に100万人を超えたことで、一般にその存在が知られるようになりました。その後、VTuberは増加の一途をたどり、21年10月現在で、1万6000人いると言われています。

 開始当初は作り込んだ動画を公開するVTuberが多かったのですが、最近は生配信を中心にゲーム実況や歌唱を行うライバーが人気になっています。21年では、YouTuberのスーパーチャット(投げ銭)世界ランキングのトップ10の9位までを、日本のVTuberが占めており、そのトップの金額は、1億9000万円を超えると言われています。

 人気の本質は、今まで別の文脈として存在したアニメを中心とするキャラクター文化と、ライブ、リアルタイムを共有する文化が合流したことにあります。絵で描かれ、人間の物理的制約に縛られない創作キャラたちの魅力は言うまでもありません(リアルアイドルや2.5次元的存在はここに限界があります)。そして、生配信というシステムと結びつくことで、キャラクターとのコミュニケーションの可能性が開かれました。

※注1 14年にNOTTVなどで生放送されたアニメ。キャラクターはフルCGで、担当声優がモーションキャプチャーのセンサーを身につけ動きも演じた

異なる2つの文化の融合

 当然ですが、いかに気に入ったアニメキャラクターであっても、こちらからの働きかけに、リアルに反応してくれることはあり得ません。それが「昨日、大雨だったよね、大丈夫?」とこちらの現況に応じて声を掛けてくれるし、コメントを打てば読み上げて反応してくれることもある。もちろん万人が反応をもらえるわけではありませんが、可能性はユーザー全員に開かれています。この「コミュニケーションの可能性」が、VTuberの最大の魅力です。

 現在のVTuberの世界では、キャラクター文化としてグッズ化などは旺盛に行われており、時間を共有するライブイベントの動員力も非常に高くなっています。現状は、旧来のアニメファンが一気にVTuberに移行していますが(特に男性アニメファン、女性はこれから)、今後、業界や年齢層が広がっていくであろうことは想像に難くありません。また特筆すべきは、ここ2年で英語圏やスペイン語圏でもVTuber人気が拡大を見せ始めている点です。ここ数年では数少ない、ほぼ完全に日本発の文化と言えます。

 今後、AR・VRが当たり前になった場合にも、存在が絵であるVTuberの進出の可能性は計り知れません。例えば猫好きでも、リアルな猫の写真のグッズを持ち歩くことはあまり一般的ではなく、ハローキティのグッズを持ち歩くほうが自然です。将来的にメタバース空間で、生身のYouTuberと一緒に過ごすよりも、自分の気に入ったキャラクターであるVTuberに一緒にいてほしいと思うほうが自然ではないでしょうか。現状、メタバースとVTuber文化の間には若干の隔絶がありますが、同じ技術的出自を持つ以上、近い未来に合流することはほぼ確実です。

 最近はスキャンダルめいたことが起こっているのも事実ですが、生身のタレントのもう1つの弱点である、老いや経年変化とは無縁であることを考えても、未来は明るいと言っていいでしょう。実は、20年前後に一旦世間に認知されてから、1度幻滅期に入った感がありました。それでも、好きな人たちはひたひたと増え続け、そのバリエーションを増やしてきた。VTuber文化は、まさに今、再飛躍の直前にあると言えます。

吉田尚記(よしだ・ひさのり)
ニッポン放送アナウンサー。「マンガ大賞」発起人。著書『なぜ、この人と話をすると楽になるのか』(太田出版)が累計13.5万部(電子書籍を含む)を超えるベストセラーに。マンガ、アニメ、アイドル、落語など多彩なジャンルに精通しており、年間数十本のアニメイベントの司会を担当。最近は、自ら声と経験と考え方を完全に共有する「部下」である一翔剣のYouTubeチャンネル「一翔剣ちゃんねる」で週5日配信しているほか、一翔剣の「上司」として『ミューコミVR』(日曜23時30分)などに出演中
5
この記事をいいね!する